におい道、ふたたび。~嗅覚マイスター修行録~
落選の翌日。教室の空気は、妙に静かだった。
滝川凌は、いつもどおり窓側の席で、いつもどおり教科書に鼻を近づけていた。
だが、心の中は――燃えていた。
「……くっ。足りなかった。修行が。」
3票しか入らなかったのは、誰も“におい”の真価に気づけなかったせいではない。
自分の嗅覚が、まだ未熟だったから。
そう結論づけた凌は、におい強化修行をスタートさせる。
昼休み、体育倉庫にて。
「……これは……バスケ部の靴下……塩分濃度高め、昨日の3セットゲームの証……!」
午後、トイレ横の廊下にて。
「男子便所の芳香剤の匂いの奥に、昨日の焼きそばパンの残り香……購買の田村先輩だな」
放課後、部室。
「女子更衣室の床マット。ここ、真帆がトランペット練習で踏んでた……間違いない、ラバーソールとあのマウスピースの香りが共鳴している!」
そんなある日、彼の机の中に一通のメモが。
《嗅ぎすぎ注意報発令中。鼻、大事にね。 ―誰か》
一瞬ドキッとするも、すぐに持ち上げて鼻を近づける。
「……これは……汗のミネラル系+ほんのり桜のボディシート……たぶん早矢……?」
鼻のトップランナー、今日も元気に嗅覚暴走中。
彼はまだ知らない。
このあと “におい探偵事件簿” と呼ばれる新章が始まることを――。




