嗅げば嗅ぐほど、理想は遠く。~においマイスター、挫折の日~
中学2年、滝川凌。通称「におい王」。
彼の嗅覚は犬をも凌駕すると一部で囁かれていた。
落とし物の手袋、マフラー、タオル、靴下……。
「これ、吹奏楽部のあの子のリードのにおいと一緒だから、たぶん真帆の。」
「これは明らかに補食後のカレー臭、野球部の西村先輩だね。」
その言い分は独特すぎたが、的中率はほぼ100%。
やがて先生も職員室で、
「また滝川くんにお願いして」
「昨日の落とし物、10分で持ち主判明してたわよ」
と、半ば依存気味に。
校内の落とし物BOXは、前代未聞のスカスカ状態となった。
そんなある日。
「もっと、この能力を生かすべきじゃないか……?」
ふと、凌はひらめいてしまった。
彼は、ついに決意する。
「僕、生徒会長になります!」
立候補届を提出したその足で、生徒玄関前に立ち、第一声。
「みなさん、こんにちは!滝川凌です!――僕の鼻は、あなたの落とし物を見つけます!」
ざわつく生徒たち。
演説会当日。
彼は壇上に立ち、胸を張ってこう叫んだ。
「僕の公約は、全校“においソムリエ大会”の開催です!」
空気が、凍った。
「各部活動は、最も“努力がしみ込んだアイテム”を用意してください。
たとえば、剣道部の小手、サッカー部のスパイク、吹奏楽部の使い古したリード……」
観客の誰かが、鼻を押さえる。
「全問正解者には“においマイスター”の称号を。誇りましょう!においとは、努力の結晶。においは、正義です!」
無音の体育館に、謎のポーズを決める凌。
「さあ、一緒に嗅ごう、青春の残り香を――!」
――結果、得票数:3票(本人+なぜか真帆+?)。
「落選おめでとう、犬」と書かれたブラックボードの寄せ書きの中に、早矢の字を見つけた。
《バカだな。でも……ちょっと面白かったよ。》
そう書かれていたメモに、凌はちょっとだけ鼻を近づけた。
「……やっぱ、これ、早矢の匂いだ。」
鼻はフライングスタート&トップランナー、理性は相変わらず周回遅れ。
でもそれでいい、と彼は思った。




