@女子更衣室 ― 換気より、共感を ―
※本作には、思春期の女子が抱える日常のリアルな描写(体調や気持ちの揺れなど)が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
放課後、陸上部の練習が終わった体育館裏。
汗をたっぷりかいたTシャツと短パンを脱ぎ捨て、女子更衣室には、特有の熱気とにおいが立ち込めていた。
ロッカーを開けた早矢は、スポーツブラの下に貼りつくシャツを引っ張りながら、ふぅっと息をついた。
「今日、湿度ヤバくない?なんか身体にカビ生えそう」
とぼやいたのは、短距離の美咲。制服のブラウスを扇風機の前に広げている。
「てかさ、走ってる途中、マジでお腹ギューってきたんだけど。あー、もうすぐかも……」
長距離の悠乃が言いながら、生理用のポーチを取り出す。
「わかる。私、昨日のリレーで盛大にスタートミスったんだけどさ、あれ、生理のせいだから!言い訳じゃなくてマジで」
と千晶が言いながら、着替え中にナプキンの袋をカサカサさせる。
「生理で集中力下がるのガチだよね。あと、やたら汗かくし……」
と、誰かが言った瞬間、早矢は無言で顔を上げた。
「……あ、早矢ってさ、あんまそういうのないイメージ」
美咲が笑いながら言う。
「なにそれ。私だって、あるし……」
と早矢は言いかけて、うまく言葉が出てこなかった。
「でもさ、早矢って、腹筋割れてるじゃん?なんかもう、女子ってよりアスリートって感じ」
「男子より強そう」
「ていうか、生理とか無縁そう」
「うらやましい〜」
女子たちは明るく笑っている。でも、早矢の胸の奥には、言葉にしづらい何かがあった。
「……そっか、私、そう見られてんだ」
強くいたかった。筋肉を鍛えることで、自分を守れると思っていた。でも、本当は——
生理のときに動くのがつらいのも、汗のにおいが気になるのも、同じなのに。
「……私も、今日、腹痛くなった。走ってるとき。みんなと一緒だよ」
ぽつりと早矢が呟いたとき、更衣室の空気が、すこしだけ静かになった。
「え、マジ?早矢が?」
「……なんか、ちょっと安心したかも」
「でもさ、我慢してたんだ。すごいなぁ」
「……すごくないよ。痛いの嫌だし。ホントは休みたかった」
正直に言ったら、ちょっと楽になった。
着替えを終えた部員たちは、それぞれ髪を結び直したり、リップを塗ったりしながらも、少しだけ、早矢に目を向けていた。
「よし、じゃあ今日の生理お疲れ会でもやる?ドリンクバー付きで」
「ねえ、じゃあ全員1杯目はアイスココアな!」
「え、なんで?」
「甘いもんは、正義なの」
笑いが、空気をふわっと換気した。
そして早矢は、心のどこかで思っていた。
“女子って、強い。でも、それって弱さを言える強さかもしれない”と。




