表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/86

@男子更衣室ー臭いものこそfull openー

「おい、タオル貸せって!そっちの汗で濡れてるのやだ!」


「うるせーな、お前のも臭ぇよ!」


 部活終わりの男子更衣室。

 湿気と汗と洗剤と、足のにおいと、時々なぜかカップラーメンのような謎の香りが漂う混沌の空間。

 凌はひとり、ロッカーの隅っこでTシャツを脱ぎながら、ぼんやりしていた。


(……女子更衣室って、今この時間、どんな匂いしてんだろ)


 そんなことを考えてしまった自分に、そっと赤面。

 誰にも聞かれてないと分かっていても、ちょっとだけ心の中で正座する。


(いやいやいや、ちがうちがう、別にやましい意味じゃなくて、研究というか観察というか……)


(ただ、こう、柔軟剤の匂いとか、せっけんとか……あと、体育会系女子特有の、汗と女の子の体温が混ざったような……)


「って、バカか俺はああああ!」


 突然大声で自分を叱りつけてしまい、隣の部員に変な目で見られる。


「……どした?急に、なんか憑いた?」


「いや、なんでもない……暑さでちょっとな……」


 タオルで乱暴に頭を拭きながら、目線はロッカーの中。

 そこには汗の染みこんだ自分のユニフォーム、ジャージ、部活用Tシャツ。

 それを見て、思わずうめく。


(なんだこの獣臭……人間辞めてないか俺)


 それでも、ふと思う。

 この汗も、この匂いも、あの早矢と一緒に走った証。

 自分が彼女のために差し出したジャージ。

 あの時、彼女のお尻に敷かれたジャージには──


(……早矢のにおい、まだ残ってるかもしれん)


 ガサゴソ。


 ロッカーからそっと取り出し、鼻先に当てた瞬間──


「おい、りょう!それ嗅ぐのかよ!?自分の!?変態か!!」


「ち、ちが……っ、これは……確認!ただの確認!」


 爆笑が広がる。

 他の男子たちはすぐ別の話題に移ったけど、凌の耳は真っ赤だった。


(やばい、まじで犬だ。俺、においに関して完全にフライングスタート&トップランナーだ……)


 そして──

 目を閉じたとき、ふと頭に浮かんだのは、あの早矢の声。


「お前、何がわかるんだよ」


 腹を押し当てたときの、固くて、でもちょっとだけ震えていた彼女の腹筋の感触。


 ──今、着替えてるのかな。

 ──ブラ外す瞬間って、どんな顔してるんだろ。

 ──走ってきたあとの汗って、俺のよりも、しょっぱいのか、甘いのか……。


(だめだああああああ)


 自分の中の“何か”がそろそろ目覚めかけていて、

 凌は慌ててズボンをはいた。


「なあ、お前の靴下、左と右で色ちがくね?」


「え?……ちがう、これ、フェードかかってんの、オシャレ!」


(やばい、集中しろ俺!)


(俺の理性はもう、周回遅れだ……)


 ──汗と妄想とフェロモン。

 そんな男子更衣室の片隅で、ひとり「匂いに恋する」思春期男子が、今日も戦っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ