匂い王 番外編:みなさん、すてき。仁丹、無敵。
朝のHR直前。
教室の空気に異変が起きた。
スッ……と鼻をかすめる、謎のミント系漢方の香り。
凌「きた……!このスーッとした、でもなんか“湿気を帯びた”香り……!」
真帆「出た。仁丹。」
早矢「匂いで登場がわかる教師って、怖すぎない?」
澪「存在が芳香剤と化してる人類……」
ガララッ!
仁丹先生「えぇ〜〜〜、グッドモーニン、エバリバデー……」
仁丹臭、最大拡散。
---
◆ ※ここで説明しよう!「仁丹」とは
銀色の小粒(見た目はちょっとカッコイイ)
口臭予防&気付け薬として昭和を駆け抜けた
中身はミントというより、「仏壇の下にある何か」的な香り
飲むとスーッとするけど、大量に持ち歩くと“空間兵器”になる
---
仁丹先生、ポケットから銀の粒をチャリチャリさせながら、
黒板にゆっくり文字を書く。
先生「今日の英語は、“smell”……ですねぇ……。
リョウくん、smellの意味は……?」
凌(くっ……この声……音波じゃない、湿度が……脳にまとわりつくッ!)
凌「え、えっと……においを、かぐ……」
先生「えぇ〜、すてきです。リョウくん、すてき。
みなさんも、すてき。
みなさん、すてき。」
クラス全員:
(全ッ然すてきに聞こえねぇぇぇぇ!!!!)
---
そして事件は起きた。
授業中、先生がポロッと仁丹のケースを落とした。
\ カランカラン……/
転がる銀の粒。
反射的に拾おうと手を伸ばす凌。
仁丹先生「おっとぉ〜〜〜、触っては、いけませんよぉ〜〜〜〜〜〜」
(声がいつもより“3割湿ってる”)
凌「あっ、す、すみませんっ……!」
先生、仁丹を拾って笑う。
仁丹先生「これはですねぇ……私の魂のようなものですから……
触るには、覚悟がいるんです。えぇ、えぇ……」
凌(魂、湿気てんの!?)
---
そして終礼後。
廊下でふらふら歩いていた凌は、再び遭遇する。
仁丹先生「リョウくん……あなた、いい鼻をしてますねぇ……
その鼻で、ぜひ感じてほしい。仁丹の歴史の奥深さを。」
凌「い、いえ、オレはちょっと……!」
仁丹先生「逃げないでください。
においからは、逃げられません。人生と一緒です……」
凌(やめて!!言葉が湿って心に染みてくるぅぅぅぅ!!)
---
その日、におい王・凌は悟った。
「鼻がよくても、生きるのは大変」だと。
そして、こうつぶやく。
凌「……みなさん、すてき。
仁丹、……無敵……。」
ナレーション:
においと湿気の伝道師・仁丹先生――
今日も彼のポケットからは、銀の弾丸がチャリチャリ音を立てている。