『箱の中身は何でしょう?~命の香りは三者三様~』
部室に集まった3人の少女たち。
吹奏楽部の真帆。陸上部の早矢。剣道部の澪。
そして、目隠しをされ、手を縛られた男がひとり。
――匂いマイスター・滝川 凌。
「いい?ルールは簡単。箱に入ってる“アイテム”の匂いを嗅いで、誰のものかを当てるだけ!」
「当てたらご飯奢ってあげる。でも外したら――」
「“におい王”の称号、剥奪よ」
「今後一切、匂いを嗅ぐことは禁止。永久追放。」
(……これは試練。三種の神器を前に、我が鼻、真価を問われる時!)
箱の中身、第1問。
パカッ。
「……この空気の湿度、そして……わずかに漂う、薄いレモンの香り……」
スゥ~~~ッ
「吹いた直後の金管楽器特有の金属臭。そして、そこに混ざるのは、わずかに酸味のある――乙女のかほり!」
「……これはッ!」
「真帆のマウスピース!!」
ピンポンピンポーン!
「当たり。でもなんでそんなに詳しいの……?」
「マウスピース舐めてるんじゃないでしょうね?」
凌「舐めてない。嗅いでるだけだ。」
---
第2問。
箱の蓋が開いた瞬間、鼻先をかすめたのは――
「……これは、これは……太陽と、土と、汗と……そしてほんのりメントール系のボディシート……?」
スゥゥ~~
「違う……これは“上から重ねた対策の香り”だ。その奥にある、育ち切った青春の香りを、僕の鼻は逃さない!」
「うん、この湿度。かかとの内側のくぼみに残る、微かな布の擦れ……」
「これは!早矢のシューズ!!」
正解!
「……やっぱり嗅いでたんだね」
「いいけど……犬っていうか、もう……執念だよ」
---
ラスト問題。
蓋を開けた瞬間、空気が重くなる。
「っ……この威圧感……これは、もう一つの武道。」
スゥ……………ッ!
「革。汗。武士。これは完全に“道場の記憶”。しかも、微かに残る……ハンドソープと消毒アルコールの匂いと、洗ってない気配のバランス……」
「うん、これは、そう――」
「澪先輩の小手!!」
正解!!
「……また私の防具嗅いだでしょ」
「嗅いでませんッ!あの時の記憶と、今の香りがシンクロしただけですッ!!」
---
3問正解。
少女たちはしぶしぶ財布を出した。
「全部当てるとか正直引いた……」
「でもすごいよね、嗅ぎ方が職人の域……」
「人間って、ここまで鼻で生きられるんだ……」
凌は目隠しを外し、胸を張る。
「みんな違って、みんないい」
そう、
真帆のマウスピースには甘酸っぱい緊張が、
早矢のシューズには命を削った鍛錬の証が、
澪の小手には武士の魂が、それぞれ宿っていた。
どれも唯一無二。すべてに意味があり、愛おしい。
「青春の香りに、ハズレなんてないんだよ」
少女たちは黙って、ほんの少しだけ――笑った。