それ、においじゃなくて、生き様だから。
放課後の体育館裏。
早矢はランニング後のジャージをパタパタ仰ぎながら、微妙な顔で呟いた。
「……ヤバい。今日、ちょっと汗やばいかも。いや、かなりかも」
「また風と一緒に全身から“戦闘のオーラ”出してる?」
後ろから顔を出したのは、例の“変態犬”こと、滝川凌。
「うるさい!てか、近寄らないで。今日の私は、たぶん自爆系よ」
「いやいや、むしろ嗅がせてください。魂レベルで」
「変態確定じゃんそれ!」
「だってお前、全力で走った後ってさ……何かこう、“生きてる”って匂いがするんだよね」
「いや、するよ!?問題は、強いんだよ!?“生きすぎてる”の!!」
早矢は必死に自分のジャージを扇いでいたが、凌はスッと近づいて、くん、と鼻を鳴らす。
「……あー、うん。今日は……“味噌ラーメンにたどり着く前のスープ”って感じかな」
「どんな比喩だよ!?ちょっと美味しそうに言わないで!!」
「でも俺、嫌いじゃないぞ。お前のにおい」
「やめてよ、それ真顔で言われると照れるじゃん……!」
凌は軽く笑った。
「だってな、汗ってさ、努力と本能のブレンドじゃん?それって、“魂の匂い”なんだよ」
「うわ、出た!変態詩人モード!」
「俺にとっては、ほら、“臭い”じゃなくて“証拠”だから」
「……証拠?」
「お前が今日、ちゃんと生きて走ってきたっていう証。俺にとっては、どんな香水より本物」
「……」
早矢は一瞬だけ沈黙して、ぼそりと呟いた。
「……じゃあ、あたしの生き様、今ちょっと味噌ラーメン臭なんだ……」
「いや、それはそれでアリだろ」
「ないわ!!」
でも──風が吹いたあと、ふたりともほんの少し笑ってた。