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組織の策略

 光の槍が、凶悪な魔物を包み込んで弾けた……俺は戦場を注視し、結末をしかと確認する。

 帝国側にとって、間違いなく切り札である大地の力を利用した魔法。俺やミーシャが持つ力を加えたその攻撃に対し、魔物は――光が消え、残った凶悪な存在の体躯は、ボロボロになっていた。


『……どうやら、帝国の魔法は通用したようだな』


 ジャノが言う。俺が同意するように頷いた時、凶悪な魔物の咆哮が響き渡った。

 体は崩れながら、それでも吠え突撃を開始する。目前には結界が存在しているが、それを突き破ろうかという勢いである。


 そして、決死の突撃が結界に突き刺さる……重い音が戦場に響く。だが結界を破壊することはできず、魔物はとうとう力尽きて消え去った。

 そこで騎士達は結界を抜けて周辺にいる敵の掃討を始めた。間髪入れずに攻撃を仕掛け、最前線の優位を維持しようと動く。


 結界はなおも形成されていたが……やがて消えた。俺はそれを確認した後、ジャノへ問い掛ける。


「あの結界、維持し続ければそれだけで優位に立てそうな気がするけど……」

『長時間維持はできないのだろう――推測だが、大地の力を利用する以外にも必要な物があるのかもしれん』


 そうジャノは俺へ説明を行う。


『大地から引き出した魔力とミーシャ王女の力を掛け合わせたのは間違いないが、単純に魔力同士を組み合わせてすんなりいくとは思えん。というより、簡単に混ざり合うのであれば組織もこの技術を利用しているはずだ』

「確かに……そうだな。ということは何か仕掛けがあると」

『うむ、おそらくミーシャ王女が持つ力……他者に付与するという特性を利用し、無理矢理大地の力と組み合わせているのだろう……ここからは推測だが、二つの力を組み合わせるために触媒でも利用しているか、あるいは王女が持つ力を無理矢理変化させているか……組織には用意できない何かをもって、先の魔法を発動できたのだろう』

「ということは、今披露した技術は帝国しか持っていない……」

『そこは間違いない。しかしその一方、制約として長時間使用できないという問題がある、ということなのかもしれん』


 俺は宮廷魔術師達を見る。脅威を倒したことで士気も高いようだが……遠方から見ても披露している人間がいる。結界を使用するために制約が必要なことに加え、術者自身も相当な負担になる……ということなら、長時間結界を維持できないというのも納得できる。


『また、これで組織側は……エイテルは情報を得たことになる』


 ジャノはさらに言う。情報――俺は戦場を見据えながらジャノの言葉を聞き続ける。


『先ほど姿を現した魔物化した人間……魔人、とでも呼称するか。魔人を一体使って帝国側の策がどのようなものかを調べた、という風に解釈できる』

「……魔人は組織にとっても貴重な戦力のはずだが」

『それを事前に多数用意しているのであれば、一人失っても問題ないという判断かもしれん』


 ――帝国側は、魔人が出現したことで即座に対応した。騎士達を救うためなのは間違いないし、実際に魔人を倒すことはできたので戦況としては帝国側に傾いているのは確実だ。

 だが、その一方で組織は無理な攻めをしていない……帝国は早々に手の内を明かしており、組織側は攻め手を小出しにしている。


『エイテルはどうやら、最前線を捨て駒にして可能な限り情報を得ようと動いているのだろう』

「それはつまり……現在までエイテルの思惑通りか?」

『組織側……特に本陣付近に動きがないことは、それを証明していると言える。帝国側としても切り札はとっておきたかっただろうが、早々に使うことになった』

「だとするなら、次に起きるのは……魔人が複数襲い掛かるとか、か?」

『まだ戦力を小出しするのであれば、エイテルはさらに情報を得ようとしてくる……もし魔人が一斉に襲い掛かってくるのであれば、決めに掛かるという算段だろう』


 その状況になったら……沈黙していると、組織側で動きが。

 新たに魔力を発し、魔人と化す人間が――二人。今度は複数。正直魔人が三人だけとは思えないので、まだ戦力を小出しにしている段階なのだろう。


 帝国側はどう見るのか……考える間に、帝国の本陣にも動きが。後方から、セリスが姿を現した。


「セリス……」

『状況を見て前に出るつもりのようだな』


 ジャノは言うと、さらに俺へ向け口を開いた。


『エルク、もし魔人が一斉に襲い掛かってきたのなら、その時こそエルクの出番だろう』

「魔人の進撃を阻む……というのがいいのか?」

『うむ、今はひとまず皇女がどのように戦うのか……それを確認すべきだな』


 俺はセリスを観察する。魔人二人は突撃し、いよいよ最前線へ到達する。その一方で今度は結界を構築していない。リソースを温存している、というわけか。

 ならば、魔人二人はセリスに委ねられた……俺は自然と体に力が入る。飛び出したい衝動を抑えながら、セリスと魔人達の距離が、一気に近づくのを目に映した。


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