表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/121

魔物と槍

 ラドル公爵に匹敵するような力を持つ魔物が、とうとう戦場に出現し騎士へと襲い掛かる――状況は間違いなく深刻だった。

 ここまで戦況を優位に進めてきた帝国側だが、騎士達を蹂躙できるだけの力を持つ個体が現れた。数という観点で言うと帝国の方が上みたいだが、組織は量を質で粉砕できるほどの戦力がある。


 とはいえジャノの言う通り、ラドル公爵のような力を持つ個体がこの戦場で出てくることは、帝国も予想しているはず……ここで、騎士達は集まりながら凶悪な魔物から離れ後退する。組織側の陣形を崩していたため、このまま押し込めれば理想だったが、新たな脅威にリスクは取らない様子だった。

 そして、凶悪な魔物が騎士達に狙いを定め、肉薄する――俊敏性も騎士達と比較にならない。どれだけ急いで後退しても、確実に魔物が仕掛けてくる。加えて、まだ前線にいた他の魔物も残っている。凶悪な敵ばかりに気を取られるわけにもいかず、帝国はどのように対処するのか――


 刹那、先んじて動いたのは最前線にいる騎士達ではなかった。その後方に陣取り様子を窺っていた者達……宮廷魔術師だ。

 男女が入り混じる魔術師達が、突き進んでくる凶悪な魔物に対し動いた。直後、騎士達を守るように結界が形成される。帝国と組織を分断するような横幅のある結界であり、しかしそれでも目前に迫る脅威は突撃を止めなかった。


 もしあれが突破されたら――そう思った直後、轟音が生じた。ゴウン、という壁に激突した重い音であり、凶悪な魔物は結界に正面から挑み、そして逆にはね飛ばされた。


『防御力は確かだな』


 ジャノが言う。単なる突撃であってもラドル公爵を魔物化した力を持っているなら、結界を破壊することは可能だった……はず。けれど結果は組織側の一方負け。宮廷魔術師達の防御によって、相手は完全に進路を阻まれた。

 ……少なくとも、ラドル公爵級の力を持つものであっても宮廷魔術師達の魔法で防ぐことができる……この点については大きいだろう。


 とはいえ疑問はある。凶悪な魔物が行った突撃には、間違いなく世界を滅ぼす力が備わっていたはずだ。その力を体にまとわせるだけで、結界なんて容易く破壊できてもおかしくはないのだが――


『ミーシャ王女の力が遺憾なく発揮されているな』


 俺の疑問についてはジャノが答えを示した。


『どうやら帝国側としては、大地を利用した術式に王女が持っていた力を利用する技術を得たらしい』

「大地を……?」

『あれほど大規模な結界の形成、一個人の能力では無理だ。よって大地に備わる魔力を利用しようと考え、そこにミーシャ王女の力を付与することで硬度を高めている』

「なるほど……ん、待てよ。そうなったら防御だけでなく攻撃も――」


 俺は呟こうとしたその先だった。突如帝国側の地面から、魔力が溢れ出す。

 それはどうやら宮廷魔術師によるもの。地面に魔法陣が形成され、そこから巨大な槍が一本、出現する。


「あれで、攻撃するのか?」

『そのようだな……おそらく結界は内側からならば姦通する仕様だろう。つまり、宮廷魔術師達は結界を維持する者と攻撃する者とで分かれ――』


 ジャノが言い終えぬ内だった。地面から出現した魔法が放たれ、それは凶悪な魔物へと真っ直ぐ飛んでいった。

 ジャノの推測通り光の槍は結界を貫通し凶悪な魔物へと飛来する。相手は――それを受ける構えに入った。回避が間に合わないタイミングだったようだ。


 すると凶悪な魔物は意外な行動をとった。直撃するしかない状況において、相手は光の槍を受け止めた。


「なっ……!」


 俺は思わず声を発した。宮廷魔術師達にとっては紛れもない切り札だが、それを凶悪な魔物は耐える構えを見せた。

 正直、勝負がどう転ぶかまったく見えなくなった……槍と魔物は戦場の中央付近でせめぎ合いを始め、双方の魔力が荒れ狂い始める。


「どちらが勝つ……? ジャノ、もし帝国側が負けたら――」

『組織側は勝ってもその勢いで反撃とはいかないだろう。まだ結界は維持されているからな。しかし、少なくともこの魔法は帝国にとって切り札の一つに違いない……負けた場合の衝撃は大きくなる。ラドル公爵級の力を持つ個体に対し、帝国側は対抗できない、という結果に至るからな』


 もし相殺などによって組織側が魔法を弾いたタイミングで、介入すべきか――そんなことを胸中で考える間も、魔物と槍はなおもせめぎ合っていた。

 結界を張っているため組織側はこの間に他の騎士達を……という展開にはなっていない。帝国側としてはそういった状況を嫌った意味合いもあって、結界により敵の進路を阻んだのだろう。


 結界がある限り一方的に攻撃できる……が、ここまで披露しなかったのは何かしら問題点があるからだろう。それは一体何か――考える間に、いよいよ光の槍による攻防の決着がついた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ