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勝利条件

 翌朝、日の出前に俺は起床し、身支度を始めた。

 屋敷にいる者達には既に通達しているため、支度が済んだら外に出ればいい……ジャノが声を掛ける前に目覚めたため、ひとまず寝坊することについては回避できた。


 身支度を済ませた時、ジャノが『早いな』と俺に声を掛けてきた。


『我の出番はなかったか』

「俺の意識も相当気合いを入れている、というわけだ」


 返答しつつ準備を整えると、部屋を出た。廊下を進み、屋敷の入口へ到達した後、俺は一度振り返る。

 誰もいない屋敷。太陽が出る前に目覚めたことなんて数えるほどしかないので、俺しかいない屋敷入口はどこか新鮮だ。


『何か気になるか?』


 立ち止まったためジャノが問い掛けてくる。


『まさか屋敷に戻れないかも、などと考えているわけではあるまい?』

「もちろんだ……さて、行こう」


 気を取り直して外に。扉が閉まる音と共に、周囲からは鳥のさえずりが聞こえてくる。


 この時間でも農作業をしている人はいるかもしれないため、できるだけ目立たないように動くことにする……これはエイテル達にバレないように、というのではなく、見つかると質問攻めとかされる気がするためだ。

 俺が何をしているか領民は当然ながら知らない……無用な不安を与えたくないので、誰にも見つからないように領内を出ることにする。


 魔力で両足を強化しつつ、周囲の気配を探りながら俺はルディン領の中を移動する。やがて農地が見えなくなると、速度を増しつつルディン領を出た。

 そして決戦の場へと向かう……既にセリス達も、組織も準備は済ませ決戦まで秒読み段階だろう。そこに俺が介入し、場を荒らす……基本的にはそのような形となる。


『組織側の布陣を見て、ある程度動き方は変える』


 移動中、ジャノが俺へと告げる。


『その判断は我にやらせてもらおう』

「わかった。とりあえず最初は増幅や蓄積の技術は使用せずに戦う……ってことでいいんだよな?」


 確認の問い掛けにジャノは『構わない』と答えた。


『修行はさらに進み、どうやら組織側の手勢とエルクの実力差はさらに開いているからな……まずは通常の能力で応じる。そして多数敵が襲い掛かってきたのであれば――』

「遠慮なく増幅の技術を使って対処、か」

『エルクのことが戦場で周知されるまでに、どれだけ敵の戦力を削れるかが勝負だな。それによって、皇女を含めた味方側も状況が大きく変わる』

「……可能であれば気配を消しつつ密かに敵を削っていくのがいいんだろうけど」

『エイテル達組織は皇族側が自分達と同様の力を所持していることは把握しているはず。さすがに索敵などを用いて我らの力を確認しているはずだ。隠密に行動、というのは厳しいだろうな』

「そうだな」


 俺は同意しつつ、ひたすら突き進んでいく。強化による俺の移動速度は最初の時から比べものにならないほどであり、この調子ならば予定よりも早く戦場に到達できるかもしれない。

 決戦の場が近くなってくれば、気配などが漂ってくると思うが……やがて、目的地の方角に魔力が立ち上る場所を感じ取った。


「戦場は近いな」

『うむ、そう遠くない内に到着する……エルク、周囲の警戒を行いつつ、速度を落とせ。こっからは少しでもバレないように立ち回ろう』

「わかった」


 俺は速度を下げ、周囲を警戒しつつ進んでいく。少しすると鬨の声が聞こえてきた。いよいよ始まる、といったタイミングだろうか。

 戦場にはセリスやミーシャもいるはず。彼女達と合流するのも選択肢ではあるのだが、それでは俺が来たことが露見する。なぜ戦闘能力を持たない人間がここにいるのか……疑問はすぐに自分達と似たような力を持っているのだ、という確信に変わるだろう。俺が戦場に来る理由は、組織が保有する力を持って参戦に来た以外に、考えられない。


『……今一度、勝利条件を明確にしておく』


 そして、ジャノが俺へ話し出す。


『何より優先すべきは、組織の構成員……魔物化した存在を余すところなく撃破する。まだ魔物化に至っていない人間は捕虜にするという選択肢もあるが、さすがに決戦場で無駄な人間を連れてくるのはあり得ない。おそらく戦場において組織に所属する者達は、魔物化あるいはエイテルが得た技術を活用し、強化した者達ばかりになっているはずだ』

「魔物化の技術を完成させ、人間を辞める必要がなくなったのであれば、傍目からただの人間も多いんじゃないか?」

『研究が完成してからそれほど時間は経過していないだろう? さすがに配下全てにそうした処置を施すことは困難である以上、人間を捨てずに力を得ている者は少数だろう。まあ、そこを見分けるのは我に任せてくれ』

「何か方法が?」

『ああ』


 ジャノが自信を持ちながら返答した時――さらなる声が聞こえてきた。決戦場が近い。俺は速度を緩めることなく、ただひたすら目的地へと進み続けた。


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