穏やかな修行
俺はイーデと相談しつつ、修行を行う場所を選定。俺が言及した猟師小屋を利用し、素材を使って魔力遮断をして実際に修行することに。
魔力を遮断する素材については、地底へ潜らなくても調達できる……ここはミーシャに依頼をした。ルディン領の人間が突然魔法系の素材を欲しがるというのはさすがに違和感があるし、怪しまれる……エイテルが物流まで把握しているかと言われると微妙だが、絶対に俺のことは露見してはならないと考えると、石橋を叩いて渡るくらいが丁度いい。
結果としてミーシャが素材を持ち込んで、それを利用し猟師小屋を改良する……といっても、素材で小屋を覆うだけなので、そんなに作業は必要なかった。
「完全に密閉はできないけど、多少なら漏れても問題はないと言っていたし、ひとまずこれでやるか」
俺は一つ呟く……猟師小屋の中を整理し、掃除もしてさらに魔力を遮断する素材で覆った。ひとまず修行を開始してみて、問題があれば都度対策すればいい。
小屋の中は魔力遮断の素材で覆っているため、魔法の明かりによって室内を照らしている。俺は一度深呼吸をした後、
「それじゃあ、ジャノ。始めるか」
『うむ、では我の言う通りにしてくれ』
――修行内容は魔力の増幅について。俺はジャノの指示を受けながらひたすら魔力を高めていく。
準備については数日で完了したため、俺は修行に専念できる……のだが、果たしてこの増幅の修行が上手くいくか。失敗すれば時間を無駄にするだけであり、不安ではあるのだが――
『決戦へ向けての準備は順調に進んでいる』
と、俺の不安に対しジャノはそう告げた。
『想定していたよりもずっと早く準備は整いつつある。エルクが不安に思うのは無理もないが、決して状況が悪くなっているわけではない』
「そうだろうけど……最大の疑問は、決戦までに間に合うか、あるいは俺の力が通用するのか――」
『そこについて疑問に思うのはもっともだ。だが、さすがにエイテルがいかに研究しているとしても、エルクが所持する力を上回るとは考えにくい』
「……魔力の総量は、俺の方が上だと言いたいのか?」
『ラドル公爵の一件を振り返ると、あれは魔力を増幅して相当に力を強化していた。公爵は間違いなく、魔力により大暴れしようとしていたわけだが、魔力量はエルクの方が上だ。公爵の魔物化は持ちうる魔力を全て燃料のように消費し、強化していた』
「逆に言えば、瞬間的に魔力を増幅すればあれほどの力を得られるというわけか」
『うむ、そしてエルクは膨大な魔力により、増幅の技術を高めれば長時間爆発的な力を得られる』
そうであればいいんだが……。
『今は増幅技術を高め、その力に耐えられるよう修行を行う……時間はある。ゆっくり進めても、決戦までには間に合うだろう』
「もしもの可能性を考え、一日でも早くした方がよくないか?」
『その場合は、さすがにエルクの体でも耐えられない可能性がある……心配するな、決戦まで数ヶ月だが、今から順調に進めれば一ヶ月程度でどうにかなる』
それなら、まあ……俺は納得し、修行を進めていく。とはいえやることは地味で、小屋の中でひたすらジャノの指導を受けて体を動かしたり、内の魔力を高めたりするくらいだ。
まあ、この作業だって長時間やっていると疲れてくるけど……俺はジャノと雑談を交わしつつ、作業を進めていく。
「ジャノ、以前古の種族のことを語っていたが、他に何かエピソードはあるか?」
『うん? 何か知りたいのか?』
「いや、別に古の種族について知りたいわけじゃないよ。作業をしつつも話はできるから、何か喋ってくれると気が紛れて嬉しいんだが」
『ふむ、とはいえさして面白いことは話せないぞ……人間についてならば、色々とエピソードはあるが』
「人間?」
『我がいた場所……人間から言わせれば古代の遺跡だが、そこに踏み込まずとも近くまで来た人間はいた。そういった者達のエピソードならば』
「例えば?」
『遺跡があるような僻地までやってきて、喧嘩を始める夫婦とか』
「……どういう経緯でそうなったのかちょっと気になるな」
『ならば話そう。芝居のように経緯から話をしていたから詳細を語れるぞ』
なんだかジャノも楽しそうだな……そんな風に俺はジャノと会話を繰り広げながら、修行を進めていく。
――気付けば、ジャノ相手にフランクに話せるようになった。道具に付随していた自我とはいえ、なんというかずいぶんと人間味があるような気がする。
古の種族は黒い水晶球に眠る力を制御するために自我を持たせたらしいけど、なぜここまで人間のような存在を作ったのだろう? 疑問に思ったが製作者は既にいないだろうし、答えを知る術はない。
まあ、それを知ったからといってどうというわけでもないのだが……あ、そういえば。
「なあジャノ」
『どうした?』
俺は一つジャノへ質問し――そんな風に、修行は穏やかに進んでいった。




