修行場所
(……そして、組織の人間が箱を開けたというわけか)
漆黒の空間で俺はジャノに対し心の声を発する――周辺には騎士もいるため、俺とジャノは心の声で会話をする。地底内で普通に会話をすると響くためだ。
『うむ、我は力を付与された存在の意思を乗っ取った後、我を持ち出した存在の願いでも叶えようかと考えたわけだ』
(そこで俺の記憶を得た)
『エルクの記憶を得なければ、我は破壊に突き進んでいただろうな』
(俺の記憶によって、感情を得た……ってことか?)
『感情かどうかはわからないが、エルクの影響を受けたのは間違いないだろうな』
……結果として前世の記憶を保有していたので、前世の漫画とは大きく道筋が違っていたというわけだ。
『我が言いたいのは、古の種族……といっても、我が知り得たのは我を作った存在と、その周辺にいた者達だけだが、彼らは人とそう違いがあるというわけではなかったということだ』
(彼らは自分の居場所を守るために動いていた……強大な力を持っていても、営みは人間とそれほど変わりがない、と)
『あくまで我が見た感想ではあるが、な』
(けど、世界を滅ぼすだけの力を持つ道具を開発できる……それによって滅んだと言っても過言ではないと思うけど、人間からしたらはた迷惑な話ではあるな)
『うむ、違いないな』
……ここは人の欲望による結果だ、と考えていいのだろうか? 俺達人間が力を求めて古の種族の遺跡まで掘り返した。彼らとしてもまさか人間が活用するとは思っていなかっただろう。
『さて、昔話はここまでだな』
そうジャノは言う……理由は明白だった。俺が鉱石を掘る現場に目を向けると、ミーシャが近づいてきていた。
「作業、完了しました」
「採掘できたのか?」
「ええ、目的の物は。これをルディン領へ持ち込み、イーデに器を制作してもらいましょう」
ひとまず、素材については完了というわけだ……さて、残る問題は俺についてか。
「まだまだ決戦まで期間はありますが、早い内に態勢を整えておきたいですわね。それこそ、相手が突如決戦をすぐに行う、などと言い出してもおかしくありませんし」
「交わしたのは口約束だからな……ま、これはセリスを始め皇帝陛下も、他の皇族も理解はしているはずだ……可能な限り早急に、準備は済ませるさ」
俺が言うとミーシャは一つ頷き、
「では、戻るとしましょうか――」
その後、俺は鉱石を持ち帰りイーデへと渡した。彼は「これだけあれば器は作成できる」と言い、ひとまず増幅と蓄積……この二つの内、蓄積についてはどうにかなりそうだった。
「俺は明日から増幅の修行に入るが……問題は、あんまり派手にやるとエイテルに気付かれる可能性があるんだよな」
「リーガスト王国内などに修行の場を設けるのはどうでしょう?」
「あー、それはミーシャにも確認を取ったが、いくら組織の人間が手を引いたとはいえ、どこに目があるのかわからない……ミーシャによれば修行の場は用意できるが、人の目が届かない場所、というのは難しいと言っていた」
そもそも、人の目が届かないという条件の場所はルディン領周辺に存在する山岳地帯にいくらでもある……のだが、組織の人間はそういった場所いた。今はもうルディン領周辺に人がいるとは思えないが、使役している魔物などが生き残っている可能性はある。それはリーガスト王国も同じだ。
つまり、普通にやっていては隠蔽というのは困難なのだが……、
「イーデ、修行の場として何か案はないか? 例えば、気配を遮断する魔法か何かを使えばいいと思うんだが……」
「こればかりは、世界を滅ぼす力を用いると逆に見つかる可能性がありますね。隔離結界などを利用する手法ですけれど、それをジャノが持つ力でやる場合、エルクさんが修行する魔力は漏れないにしても、そもそも結界自体が極めて特殊なので、万が一という可能性を考慮すると、リスクがゼロにはなりません」
「うーん……普通にやると難しいか」
「考えられる方法としては、物理的な手法で隔離するでしょうか」
「……どういうことだ?」
そこでイーデは説明を始める。
「世界を滅ぼす力でも、魔力であることに変わりはありません。よって、魔法などで物質化されていない魔力を弾く特性を持つ素材ならば、遮断することはできます。とはいえ、世界を滅ぼす力は凶悪であるため、そういった素材に直接攻撃を加えるとさすがに壊れてしまうでしょうが」
「……例えば、魔力を遮断する何かで修行場を覆う、ということか?」
「はい、単純に力の制御など、剣を振ったり魔法を試し打ちすることがなければ、破壊の危険性もないのでいけると思います。問題は覆うだけの素材と、場所を用意する必要があることですが」
「……屋敷周辺でも、人が近づかないような場所はある。猟師小屋とかに魔力を遮断する処置をすれば、いけるかな?」
修行の際、小屋の広さが問題になるかもしれないけど……とりあえずやるだけやってみるか。そう思い、俺はイーデへ素材に関して質問を行った――




