地底への再訪
数日後、俺とミーシャは叩き潰した拠点がある地底へ向かうこととなった。本来ならば事前に調査をした上で赴くべきだと思うのだが、あいにく地底へ易々と行ける俺はラムガザ鉱石がどんな物かわからないため、調査員の動向は必須。けれどそうなると、魔物などを掃討警戒した上で動く必要があり、それだけで時間が取られる。
よってミーシャは、採掘の人員を確保しつつ、調査として地底に入り鉱石があったらすぐさま作業を行う……という形で動くことを決意。だいぶ無茶なやり方ではあるが、この作業に時間を取られるのも嫌なので、強引に推し進めるという形となった。
洞窟入口まで到達した段階で索敵を行ったが敵の姿はない……魔物についても確認したがそれもいなかったため、組織はルディン領に隣接する山岳地帯から完全に撤退した、と考えて良さそうだった。
俺達は前に来た時と同じ道筋を辿って地底へと辿り着く……周囲にはミーシャが率いてきた騎士達の姿。今回は採掘を目的としているためその人員もおり、前回地底へ来た時と同じくらいの人数がこの場所にはいた。
ミーシャが騎士達の指示を行い、俺は同行しているが役割としては魔物などの警戒。採掘については手助けできないので、基本俺は作業中待つだけとなるだろう――
「まさかまた、ここに来るとは……」
俺は制圧した拠点を見据えながら呟く。建物に当然明かりはなく、地底の闇の中に溶け込んでいた。
「ミーシャ、ここに用はあるのか?」
俺は近くで騎士へ指示を出すミーシャへと問い掛ける。
「建物の中にある資料とかは……」
「何度かに分けて建物内は調べました。資料は既にリーガスト王国内に」
「そうか。となると、建物は無視して先に、か」
「建物からさらに進めば地底の奥へ到達します。以前調査した際、採掘をしていた形跡が確認できたので、そこに目的の鉱石があれば……」
「どんな鉱石があるのか確認はしていないのか?」
「さすがに採掘をする気はありませんでしたし」
それはそうか……さて、目当ての鉱石を発見できるのか。
少しして、俺達は岩壁に到達した。周囲を見回せばさらに奥へ進む通路はあるみたいだが……、
「ん、確かに掘り返した形跡があるな」
俺は魔法の明かりによって照らされた岩壁に、採掘した形跡を発見する。
「この場所を調べれば、出るのか……?」
「まずはそれを確かめましょう」
ミーシャは言い、採掘を行う人員へと指示を出した。そこで騎士達が魔法の明かりを行使して、周囲を照らしながら警戒を行う。
「エルク、魔物の気配は感じられますか?」
「いや、少なくとも周辺にはいないな」
「わかりました。こちらも引き続き索敵を行いますが、戦力的にはエルクが一番です。魔物が出現した場合、率先して動くことを期待してもよろしいですか?」
「ああ、任せてくれ」
返答の後、岩壁を削る音が聞こえ始めた。地底内に響くその音に対し、どこかにいるかもしれない魔物が反応してもおかしくない。
(ジャノ、気配とかはあるか?)
『魔物がいる可能性はゼロではないが、少なくとも世界を滅ぼす力を持つような存在は、感じられない』
(わかった、とりあえず騎士達と共に警戒を続けよう)
漆黒の暗闇に目を向けながら、俺は作業が上手くいくことと、何より目的の鉱石が採掘されることを祈る……その間もミーシャは色々と指示を出す。その仕事ぶりを見ていると、俺も何かした方がいいのかと思ってしまう。
まあもしそう問い掛けても彼女の返答は「決戦の時に頑張ってもらえれば」といったものになるんだろうけど……周囲にいる騎士を見回す。彼らは一切表情を変えることなくミーシャの指示に従い警戒を続けている。
既に彼らにはミーシャから力を付与されており、もし魔物が出現しても対応できるようになっている。組織が手を引いた以上は凶悪な魔物がいる可能性は低い……のだが、ここは普通なら人間が立ち入れない領域であり、不測の事態はいくらでも予想できる。よって、気を抜くことはできない……目前に漆黒が存在していることも、彼らの表情を引き締めている理由になりそうだ。
やがて、採掘をしている人間が話し合いを始めた。鉱石が見つかったか、それとも作業そのものの検討でもしているのか……俺はそちらに目をやりつつも、意識は漆黒へ向け続ける。
様子から、数時間くらいはこの場で警戒を続けることになるだろうか……集中力の維持が大変だけど、まあこのくらいは我慢できないといけないよな、などと考えつつとにかく待つことにする。
『退屈そうだな、何か話でもするか?』
ふいにジャノが問い掛けてくる。集中しろよ、と俺は言いそうになったが、
(何か面白い話でもあるのか?)
『そうだな……』
ジャノは一考した後、
『最近、思い出したことがある。我が生まれた直後の出来事だ』
(……思い出した?)
『そういう感覚だったという話だ。我に人間のような脳みそはないが、色々と記憶はあるらしい……退屈しのぎに聞いてくれ。我が見た、古の種族という存在について――』




