最終目標
イーデの話を聞いて、俺はまずジャノへ問い掛ける。
「ジャノ、どう思う?」
問うと漆黒の球体は少しばかり揺らめきつつ、返答した。
『うむ、我が扱える魔力があるのであれば、その魔力を用いて制御の手助けはできる。ただし、魔力を分離した場合はその魔力がなくなれば効果を失う……つまり、時間制限が存在する』
「でも、上手くいけば膨大な力も制御できる……か?」
『増幅、蓄積……これによって生まれた膨大な力も、制御できる可能性はある……まあ、試す必要はあるだろうが』
ジャノも魔力を分離するやり方はかなり良さそうな印象を受けている……が、
『しかし、魔力の分離という技術を学ぶ場合は、それだけ通常の鍛錬を行う時間が削られることになる』
「そこも問題点ではあるか……イーデ、習得までどのくらい掛かるんだ?」
「制御法自体は、数日もあれば習得できるかと。ただしジャノが力を制御するくらいの魔力を分離するには相応の時間が必要となるため、そこについては決戦までに計画を立てて準備をしなければいけないかと」
「そうか……技法自体、数日で学べるならひとまず技術そのものは体得しようか。ジャノ、それでいいか?」
『うむ、構わん。我が制御できるかどうかの検証なども十分可能だろうからな』
よし、それじゃあ……と、話を進めようとしたところで、イーデが先に口を開いた。
「まだ障害はあります。制御面については方法があるという話で、それが実際に機能するかは未知数であること。ただ、魔力分離の技法を試してみて、その後改めて色々と検討するという形で良いかと思います」
「そうだな……他にもあるのか?」
「蓄積の方です。最大の障害は、ジャノの力をため込めるだけの器があるのかどうか、です」
「それは物理的な問題か? 例えば素材がないとか……」
「力を封じるだけなら、例えばの話ジャノが封じられていた黒い水晶球などが該当するでしょう」
俺の質問にイーデは答えつつ、自身の見解をさらに述べる。
「しかし、ジャノも以前語っていたようですが、力を封じておくことは可能にしても、それが決戦に際し戦局を変えることができるほどの大きさなのか、という問題があります」
「……相手は世界を滅ぼす力を研究し、さらに力を高めているわけだからな。単純にジャノが封じられていた器を得ても、それが役立つかどうかはわからないというわけだ」
俺はイーデの言葉にそう応じつつ、
「では、どうするんだ? 元々封じられていた物すら役に立たないとなったら……」
「組織は力を他社に付与することはできていますが、道具などに付与することも目的の一つとしていました。現在時点では力を付与しなければ力を行使することができず、必然的にそれは魔物化を意味する。しかし武器や道具に付与することができれば、魔物化の問題を解消することができる」
「……エイテルは最終的に、それを目的としている、ということでいいのかな」
俺の言葉にイーデは「おそらく」と応える。
「あくまで可能性の話ですが……組織幹部は自分達も強くならなければ帝国を支配して肥大するであろう組織を維持することは困難だと考えているでしょうし」
「現在は力を持っていないけど、それでも組織を制御できているみたいだが……」
「詳細の多くを知られていませんし、研究員はほぼ力を注入されて魔物になっているため、幹部も同様に、と他の構成員や外部協力者は思っているのかもしれません」
組織の全体像が分からないからこそ、か……俺は「わかった」と応じつつ、
「研究員は魔物となっていたけど、ラドル公爵に仕込んだ力はさらに特別なものである、と」
「それこそ切り札と呼べるものなのでしょう。研究員に仕込んだ力とは異なる力を付与した上に、それが本人にはわからないようになっている……まさしく脅威です。放置するのは、危険すぎる」
俺はイーデの言葉に頷く――つまり、組織の研究段階が進んだことを意味している。
「私は公爵に仕込まれていた力について関与はしていません……おそらく帝国内で活動していたエイテルを始めとする人物達が独自に開発したものでしょう。この力を魔物化せずに制御する……そしてその技術は数ヶ月停戦をする、ということからそう遠くない内に完成すると予想できます」
エイテルが世界を滅ぼす力を得たのなら、どれほどの脅威となるか。そうした敵を、俺は倒さなければいけないわけだが、イーデの話を聞く限り――
「……増幅と蓄積。満足がいく結果になるには相当大変かもしれないが、手を貸してくれ」
「はい」
イーデは頷く。経緯から考えると半ば無理矢理仕事させられているわけだが、それでも力に対し興味が勝っているのか、目の前にいる彼の表情は明るかった。
「話を戻そう。力を蓄積するための器について、何か案があるのか?」
俺が問うと、イーデは「はい」と返事をしつつ説明を始めた。




