目標と課題
「まず、エルクさんの目標の確認ですが、力の増幅と蓄積で間違いはありませんね?」
「ああ」
頷くと、イーデもまた頷き、
「その二つを説明する前に、力に関しての説明を。ジャノさんの力……というより、世界を滅ぼせる力について、私はある程度情報を持っていた上で、今回さらに精査するという形です。さすがに数日では難しいですが、目標である増幅と蓄積についても、実現可能性があるところまでは進んでいけるかと思います」
「それは頼もしい発言だな」
上手くいけば、決戦を有利に進めることも――
「ただし、課題もあります」
「……それは?」
聞き返したが、イーデはそれを語る前に力に関する説明を始めた。
「目標である力の増幅については、エルクさんが鍛錬することにより可能となるでしょう。元々持っている力……組織の魔物が持っていた力を取り込んだという経緯からも、総量は非常に多いでしょうから、一度に使える量を増やすだけでも相当な戦力強化に繋がるはず。そこに増幅……瞬間的に力を発揮できるようになれば、戦術の選択肢も増えていくことになる」
イーデの指摘に俺は頷く……うん、これから行う鍛錬の道筋が明確になっている。
「そして蓄積……扱える力の総量が増えたところに外部に蓄えていた力による強化……エルクさんが自前で準備する力ですが、世界を滅ぼしうるだけの力である以上、単純に力を増やすだけでも非常に効果的でしょう。蓄積により用意できる力の量次第では、組織の準備した戦力を圧倒することも、夢ではないと思います」
研究者による言葉は、抱いていた不安要素を緩和する効果があった……うん、力に詳しい人物からの発言だ。決戦で圧倒できるという可能性が生まれたことは、非常に喜ばしいことだ。
「ですが、そこに至るまでにはいくつもの障害を乗り越えなければなりません」
「まずは俺の鍛錬……か?」
こちらの問いにイーデは頷いた。
「はい、何より力の制御面です。どれほど強大な力であり、それを引き出せるようになっても、制御できなければ意味はないでしょう。暴走させてでも組織の面々を叩き潰す、という方法が考えられなくもないですが、味方を巻き込む危険性もありますし、何よりエルクさん自身の体がもつのかもわかりません」
「そうだな」
俺は同意する――そもそも力を増幅しようという意見が出た時点で、制御面に課題があると思っていた。
「ジャノの存在を鑑みれば、制御自体は難しくないかもしれません」
ここでイーデはさらに説明を加える。
「ジャノは現在、エルクさんの身の内に存在しており、力の制御についてはエルクさんが行っていますが……元々、力に存在していた自我であり、相性はいいはずです。ラドル公爵がエルクさんを傀儡にしようとした経緯を考えると、エルクさんの体を乗っ取る形でジャノが力を制御……似たようなことが、可能かもしれません」
――ちなみに、イーデには俺の前世のことについては語っていない。ミーシャとも相談したのだが、ここは「必要性を感じた際に話せばいいのでは?」という結論に至り、とりあえず何も言わないことにした。
で、今の発言だが……俺は前世の漫画について頭を思い浮かべつつ、尋ねる。
「力を制御できる……といっても、ジャノはあくまで俺の体にくっついているだけだ。その状況で制御は無理じゃないか?」
「今の状態では無理でしょう。しかし、ある方法を使えば可能です」
「それは……?」
俺が訊くとイーデは改めて説明を行う。
「身の内に、ジャノが扱えるように魔力を蓄える……魔力分離法と言われる技術なのですが、体内や体外に自分の魔力を設置し、肉体の意思と切り離す手法です」
へえ、そんなものが……こちらが興味を抱きイーデを見えると、彼は続けた。
「魔力というのは同質の魔力が近くにあればくっついて融合するという性質があります。この性質によって肉体の中に存在する魔力は身の内に宿り続ける効果があるのですが、普通には分離できず、例えば肉体の魔力が何かしらの形で汚染された場合、体の魔力全てが影響を受けます」
「魔法を使うには必要な性質だが、それが時に欠点になると」
「そうです……が、この魔力分離法を使うと、身の内で魔力を分けることができる。身の内で分ける場合は、肉体の中に何も変化がなく留まり続ける魔力が生まれるという形になる。仮に魔法などで魔力が汚染された身体に異常が出ても、その魔力を排出し分けていた魔力を使えば、汚染を除外できるわけです」
「面白い技術だけど……普通なら必要がないな」
「ええ、この技術自体、有効に使われるケースはほとんどありません」
そう断言するイーデだが……彼は俺の目を見つつ、
「しかし、役に立つ例外的なケースがあなたです。身の内に存在するジャノに扱える魔力を身の内に宿すことで、増幅した力の制御……その一助になれる可能性はあるかと思います」




