決戦へ向けて
「……あなたは純粋な興味から、力の研究を行っていた」
俺はイーデの様子を見ながら言及する。
「組織が力で何をしようと思っているのか知りつつも、興味から手を貸していた」
「はい、研究も進みましたし……とはいえ、罪悪感より好奇心が勝っていたのは事実です」
「なるほど……ミーシャ、彼は魔物化していないし、根っからの悪人というわけではない。だからこそ、ルディン領で研究を行わせるという決意をしたわけか」
「そうですわね。さすがに世界を滅ぼすべく邁進していた人物であれば、いくら魔物化していなくともここへ連れてくることはありませんでした」
「……確認だが、俺や状況についてはどこまで話した?」
「エルクのことは力を持っている、程度ですわ。組織の状況については、軽く」
「わかった……イーデ、あなたは今回、司法取引によって半ば強制的に俺達に協力することとなったが……その仕事内容はかなり大変なものだ。おそらく、あなたの基準でかなり無理なことを頼むと思う」
「……はい、わかりました」
覚悟はしていたか、彼は頷く――死なないために頑張るという点に加え、結局研究者としての性が前面に押し出ているかもしれない……組織の振る舞いについて良心の呵責はあるみたいだが、それよりもやはり研究していた力そのものに興味がある……さすがに捕まった状況だから、研究により俺達のことを裏切る可能性は低いが、もっと研究ができるとするなら、仕事はきちんとやってくれるかもしれない。
まあこういう人物がいた方が力の解明に近づくのは間違いない……俺はミーシャへ顔を向け、
「とりあえず、事情を説明するか?」
「そうですわね」
頷き、ひとまず事情説明を行い――そこから、彼が使用する部屋へと案内した。
イーデについてはとりあえずジャノのことを伝え、さらに今後の方針についても説明し、彼は俄然やる気になった。そしてジャノと話を始めてしまったため、俺とミーシャは客室へ戻り改めて打ち合わせを行う。
「ジャノは離れていても問題はないのですね」
「色々試している内に、ある程度距離があっても問題ないことはわかったからな……さて、イーデは手を貸してくれそうだし、力の検証については進みそうだ」
「後はこの研究が実を結ぶことを祈りましょう。たった一人の加勢ですが、元々研究をしていた存在であり、なおかつジャノという力に備わっていた自我もいます。わたくしの見立てでは、予想以上の速度で研究が進むと考えていますわ」
「そうなればいいな……力の蓄積と増幅。この二つができれば、一気に状況は進展する。勝てる道筋が、生まれる」
まだイーデとジャノが話し合っている段階だったが……俺も予感がした。二者の研究により、大きく状況が改善するだろうと。
「なら、俺の方はその力を制御できるよう、さらに修行を進めるか」
「ええ、そうですわね……セリスは当面ルディン領へ来ることは難しいでしょう。報告についてはわたくしが請け負いますわ」
「わかった、頼む……ミーシャも気をつけろよ。あまり帝都や帝宮内をウロウロしては、エイテルに気付かれるかもしれない」
「そこは細心の注意を払っていますのでご安心を……相手もまた力の研究をしている。それを踏まえれば、いずえ帝宮に近寄ることができなくなるかもしれませんね」
彼女の言葉に俺は頷く。
「ところで、リーガスト王国側は大丈夫なのか?」
「ええ、落ち着いていますわ。組織側もリーガスト王国の方は捨て置いているようなので、国の方で何かが起こる危険性は低いかと」
「それならいいけど……ミーシャ、間違いなく君が一番働くし、大変なのはわかる。倒れられたりしたら大惨事だから、休めるときはちゃんと休めよ」
「あら、心配してくださるの?」
「当然だろ……そっちが俺のことをどう思っているかわからないけど、俺は君のことを友人だと思っているんだ」
まあ、過去の出来事を踏まえれば、俺のことを無理矢理誘う悪友に近しい感じかもしれないけど……こちらの発言にミーシャは少々面食らった顔をした後、
「あら、ルディン領へ来る度に無理難題を押しつけていたので、厄介者扱いされているとばかり思っていましたわ」
「……自覚あるなら無理難題を持ってくるのはやめてくれよ」
「ふふ、わたくしとしては、セリスの婚約者ということでまあ要求が通るだろうと思い、あなたに甘えていた部分もあったでしょう。以後、気をつけます」
本当かなあ……と、内心で呟くとそれがどうやら彼女にも伝わったらしく、
「口にした以上、自重しますわ」
「……わかった。なら信用するよ」
俺は苦笑しつつ応じると、彼女は話のまとめに入った。
「イーデについてはあなたに任せます。わたくしの方は今後、決戦までに必要な対策を始めます……組織の研究がどこまで進んだのかも調査するとセリスは言っていたので、状況次第で立ち回りを変えることになるかもしれません。その際は、エルクにも報告し、場合によっては相談することにします――」