力の器
とにかく、何か……俺が強くなるためのヒントでも見つかれば。そんな思いを胸に、俺とミーシャは作業を進めた。
俺は一度部屋を出て紙とペンを持ってくる。そしてミーシャは俺が力を手に入れることができる可能性を書き出していったが……無茶なものまであり、十五分程度経過しても成果が何一つ出なかった。
「……現実的に可能性が高いのは、組織も見つけていない道具を手に入れることですが」
「今からそれをやっても間に合わない可能性が高いと思うけどな……それに、同質の力を持っているとしても、道具の力が暴走するなんて可能性はゼロじゃない。力を得る、という観点だけなら最有力だけど、実現可能性を考慮に入れると、……」
「確かに、触れた者を容赦なく取り込んでしまうとか、リスクのある特性を備えている可能性だってありますからね」
そう言った後、ミーシャは自身の見解を述べた。
「どこからか道具を得るというのは非現実的なのはエルクも理解できるはず。であれば、消去法になりますが……力を増幅させるか、どこかに蓄えておく、という手法も考えられますわね」
「増幅……蓄積……か」
増幅は言わば、戦闘の際に瞬間的に強くなるという意味合いだろう。例えばの話、俺はジャノが持っていた力……そして魔物を倒したことで得られた力を、戦闘の際に全て用いて戦っているわけではない。
増幅は体内にある力を一気に引き出し、短時間の間通常よりも強くなる、という手法になる。
「……ジャノ」
俺が名を呼ぶと、漆黒の球体が姿を現す。
「ミーシャの意見だが、どう思う?」
『増幅については、これから試そうと思っていたところだ。エルクは鍛錬によって以前と比べ一度に扱える力の総量が増えている。しかし、体内にある全ての力を利用はできない。もし十全に利用できるのであれば、相手がどれだけ凶悪な魔物を揃えていたとしても、一気に決着までもっていくことは可能かもしれん』
「そうか……」
『しかし、肉体的な負担は相当大きい。我が考えていた鍛錬の中には、その負荷に耐えられるようにする意味合いのものもある』
「鍛錬内容は一任しているが、少しくらい話してくれても良かったんじゃないか?」
『我も試行錯誤しながらやっているため、修行の結果がまったく違う方向へ進む可能性もあった。それを考慮し、終わってから言うつもりではあったのだが』
「……そうか、わかったよ。ミーシャ、俺達は増幅の方針でやっているが……」
「であればもう一つ、蓄積ですわね」
『そこについては、そもそも我の力を温存できる器があるかどうかだ』
そうジャノは俺達へ語る。
『以前、我が封じられていた水晶球などが器に該当するが、現状でエルクが行使できる力の大きさは、そういった水晶球でどうにかできる段階ではなくなっている』
「多少なりとも力が蓄えれば、少しは変わるんじゃないか?」
『少々力を蓄えたところで、決戦の際に戦局を変えることは難しいだろう。溜めた力を増幅できるようになったエルクが使えば、体に大きな負担を掛けずとも、敵を倒すことはできるかもしれないが……』
「――逆に言えば」
と、ここでミーシャが口を開いた。
「そのような器があれば、決戦に利用できるということですね?」
『道具を扱うための訓練は必要になってくるが……な。何か考えがあるのか?』
「いえ、現状でエルクに宿った膨大な力を蓄える器、というものは思いつきません……ある例外を除いては」
『例外?』
ジャノが問い返すとミーシャは小さく頷き、
「例外……世界を滅ぼすほどの力ですが、エルクにしろラドル公爵にしろ、人間という器の中にはきちんと収まっていますわね」
『……言われてみれば、そうだな』
確かに……なおかつ膨大な力を所持していても、エイテルは俺やジャノの存在に気付かなかった。世界を滅ぼす力ではあるが、人間の肉体という器ならば、どれほど大きな力でも蓄えることができる。
「例えば、肉体を模した物……といっても、人間の形をそのまま模倣するのではなく、人間の特性を模倣した器を開発すれば、力を封じれる可能性があるのでは?」
『……可能性としてはあり得るが、力の研究が必要だ。なぜ、肉体にはあっさりとこの力が宿るのか。それを検証しない限り、利用することはできない』
「研究資料は多数存在しています。なおかつ、リーガスト王国には組織で研究を行っていた人間も捕縛している」
『捕縛? 研究者は既に魔物化しているのではないのか?』
「例外もいたのです」
『ならば、その人物に尋問でもするのか?』
「いえ、ここは別の手を打ちましょう」
別の手? 疑問に思っていると、ミーシャは俺に一つ提案した。
「その人物と司法取引を交わします。研究に協力すれば、極刑は回避できる……そのようにすれば、調べることはできるはずです――」




