王女との話し合い
俺がルディン領へ戻って数日後、ミーシャが屋敷を訪ねてきた。俺は客室で彼女と顔を合わせ、
「状況は把握しているか?」
「ここへ来るまでにセリスから直接話を。まさか組織側から接触してくるとは予想もしていませんでしたが」
「ミーシャは今後どうする?」
「帝国に協力は約束しました。わたくしは転移魔法でいつでも帝都へ入ることができる……よって、今後はエルクも同様に行けるよう手はずを整えておきます」
「それは助かる。決戦の場はまだ決まっていないけど、いずれそこへ迎えるよう手はずを整えておくべきだな」
俺のことはノーマークであるとするなら、決戦に際し移動することも怪しまれる……ギリギリまで俺という存在は隠しておくべきだ。
「ミーシャが決戦までに一番働くことになりそうだけど」
「そこは承知していますわ。世界が存続するか滅ぶかの瀬戸際ですもの」
「……とはいえ、帝国相手に相応の見返りは約束させたんだろ?」
ミーシャは笑みを浮かべた。どのくらいふっかけたか知らないが、まあ彼女のしたたかさから考えると、金額的に結構なものかもしれない。
「内容は皇族の方々が了承してくださいました。土地を得るなど禍根を残すようなものは要求しておりませんので、ご安心を。それに、他ならぬ友人の頼みですからね」
友人相手だからといって、貰えるものはきっちりと貰っているだろう、と心の中で俺は呟く。
「さて、方針は決定しました。しかし課題は山積みですわね」
「ミーシャ、率直に訊くが組織の戦力……現状がどうなっているかはセリスと話をした際に確認していると思うが――」
「セリスの師匠、エイテルがもたらした情報が正確であれば、という前提ですけれどね。その辺りは調査を進めて裏をとるとは思いますが、その間にも準備を進めなければなりません」
「敵はセリスとミーシャのことは把握しているはずだ。その特性まで理解しているかどうかは不明だけど……」
「エイテルはセリスが力を持っていないことは、帝宮内で把握したはずです。となればわたくしの援護があった……方法はわからないにしても、他者に力を付与できる能力、くらいは推測していることでしょう」
「敵はそれをわかった上で戦争準備を始めるわけだ」
「ええ、どれだけわたくしが動いても、所詮は一人。一方で組織は停戦協定が行われたことで拠点が狙われない以上、人数を割いて研究を進めることができる……わたくし一人では対応できないほどの戦力を用意するのは、確実ですわね」
そう述べた後、ミーシャは俺の目を見た。
「つまりエルク、エイテルですら把握していないあなたの存在が重要になります」
「……俺がどれだけ敵を倒せるかにかかっていると」
両肩にプレッシャーがのしかかる……セリスもミーシャも決戦までにやれることはやるはずだ。その一方で俺も……だが、正直今のままでは勝利できる未来が見えない。
仮に勝てたとしても、多数の犠牲が生まれるに違いない……それは前世で読んだ漫画と比べて、どちらがマシなのか――現在はまだ被害など出ていない。しかし、戦争準備を整えた組織が動き出せば、帝国が支配されてどうなってしまうのか――
「エルクとしては、勝算がないと考えていますの?」
「……勝つつもりで鍛錬はしているよ。でも、組織の戦力を叩き潰せるだけの力を得るのは、厳しいと考えている」
「そうですわね……形勢逆転の鍵は、エルクが持つ力……ジャノの力をさらに高めることですが」
「一応、叩き潰した拠点を再確認して、何かないか探そうかとジャノと話したんだが……」
「さすがに厳しいですわね」
ミーシャが言う。俺はそれに首肯しつつ、
「どこかで今以上に力を得ることができれば、状況は変わるかもしれないが……ミーシャ、リーガスト王国でそれらしい情報とかはあったか?」
「力を秘めた道具などはありませんでしたね。力に関する研究資料などはありましたが、道具そのものは人員がいて機能している拠点にあるのでしょう」
「そういった場所から道具を盗んでくれば話は別だが、停戦協定を結んでいるからな……」
「バレなければ良いのでは?」
ミーシャは言うが、さすがに俺は首を左右に振った。
「露見すれば全てが終わる。組織はジャノと同質の力を持っている以上、露見する可能性は高いだろ」
「それもそうですわね……となれば他に方法は……」
「……ミーシャ、ここに来たのは俺の方針を確認するためか?」
「ええ、そうですけれど」
「時間があるなら一緒に考えてくれないか? 鍛錬をしているし、ジャノの方も俺を強くするために色々な手法をやるみたいだが……それだけで組織を打倒できる公算は低いと思うんだ」
「わかりました……ならまずは、エルクが力を得るための方法について、書き出してみましょうか」
その提案に俺は頷き――作業が始まった。




