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大きな事実

「まずは現状の戦力について振り返るとしよう」


 皇帝陛下は俺達へそう前置きをして、語り始めた。


「組織側の戦力として、主戦力は間違いなくラドルに付与された力……魔物化の力になるだろう。それはまさしく脅威であり、現状では強大な力を持つに至ったエルク君でさえも、単独で打ち勝つのは非常に困難という状態だ」

「修行はしています……いずれラドル公爵が宿した力を前にしても単独で勝てるようになるとは思いますが、組織も研究を進め魔物化の力はさらに大きなものになるでしょう」

「そうだな、組織側もまた成長している……どちらが上をいくのかという競争をしている上、どの程度の戦力を向こうが用意してくるのかもわからない」


 陛下の言葉に俺は頷き……エイテルとの取引に応じた場合、魔物化が仕込まれた人間について情報が開示されるみたいだが、ラドル公爵のようなケースが十人、二十人といるのなら、例え情報を得ても絶望的な状況は変わりがない。


「それに加えて魔物も使役している。実験などを行うためルディン領内で魔物を動かしていたようだが、そういった配下が多数いても不思議ではない」


 俺はそれに再び頷く。セリスもまた同様の考えみたいで、皇帝陛下へ向け頷いていた。


「エイテルとの取引でどれほどの情報を得られるかわからないが、少なくとも概算でどの程度戦力があるのかを判断する材料にはできる……大量に戦力を保有している、あるいは保有する見込みが彼らにはあるという前提で話をした方がいいだろう」

「そうですね」


 俺が同意。組織に相当な戦力があるのなら、時間が経てば経つほど帝国との戦力差は埋まっていくわけだが――


「一組織と帝国を比較するのであれば、当然ながら帝国の方に分がある……が、これはあらゆる戦力を動員できるなら、という話だ。戦う場合は多大な犠牲も出る……取引が成立すれば、決戦の場を用意し、かつこちらも事前準備ができる上、被害も最小限にできる」

「……犠牲を出さずに対処できる可能性がある、というわけですね」


 俺が言うと皇帝陛下は頷く……陛下の中で、取引を行うという意思が固まっているように見受けられる。


「時間が経てば組織と帝国の戦力差が埋まっていくのは間違いないだろう。だが、民の犠牲を出さないようにするためには、一度立ち止まって組織の動きを止める方が有効だ。エイテル自身も予定外の事態になった場合は、都度対策の必要はあるが……」

「そこは取引をした以上、組織内のいざこざは抑えろ、という風に交渉するべきでは?」

「うむ、ひとまずエイテルの出方次第ではあるが……基本方針としてはこれ良いだろう。ならば問題としては、果たして相手を倒すことができるのかどうか。犠牲を少なくするというのであれば、組織が用意する戦力を圧倒的に上回らなければ、厳しいだろう」


 ――現在のところ、その圧倒的な力を得る手段はどこにもない。例えば俺が魔物を倒して回り、力を得ることができれば、いけたかもしれないが……。


「ここについてはリチャード達に聞いてもわからないとしか答えられないだろう……セリス、何か思いつくか?」

「鍵となるのはエルクと、ミーシャの二人ですね」

「取引の際、リーガスト王国側に関しても言及する必要がありそうだな……しかしエルク君とミーシャ君の二人……どうにかなるのか?」

「エルクは純粋な個の能力なので、これまでと同様に鍛錬に励んでもらえば……もし私達が組織の魔物化に対抗できる手段を得るとしたら、他者に力を付与できるミーシャの協力は必須でしょう」

「彼女を呼び寄せるのは確定か……時間があれば対策を立てることはできそうだな」

「とはいえ、相手を圧倒できるかどうかは……」

「そうだな。しかし現状でやれることはそのくらいか。私達が独自で組織が持つ力……それをどこかから見つけ研究するという選択肢もあるが……見つかるかどうかもわからないため、博打だな」


 やはりここは、地道に強くなっていくしかないか……ただ、昨日の話し合いと比べれば、話自体はシンプルになった。

 俺はとにかく修行により強くなればいい……決戦の舞台までにさらに強くなれば、敵が魔物化による力を制御できるようになっても、こちらが勝利できる可能性はある。


「……今回の取引で、大きな事実を得た」


 そして皇帝陛下は俺とセリスへさらに語っていく。


「それはエルク君について、ジャノのことを含め認識されていない、ということだ」

「ジャノのことなどを知っていたら、自分の部屋を訪れる、なんてことはないでしょうからね」


 俺が言うと皇帝陛下は頷き、


「この戦い、君の力が特に重要になるかもしれん。エイテルの様子から考えると、君は敵だとすら思われていない……取引が成立した後、停戦するとはいえエイテルは皇族を注視するようになるだろう。協定を守っているか確かめるために。だが君は、間違いなく自由だ」


 俺は頷く……そして皇帝陛下は最後に今後のことを告げ……話し合いは終了した。


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