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無茶苦茶な話

「取引内容は……単純よ。数ヶ月の間、停戦を行う。そして、決戦の場を用意してそこで決着をつける」

「……戦争を引き起こすのではなく、互いが了承した上で場を用意すると」

「名目上、組織が帝国へ向け戦争を仕掛けた、という形になるでしょう。つまり、帝国内を無差別に暴れるのではなく、事前に話し合った形で戦う。これなら帝国に無用な傷を与えずに済むわ」


 エイテルは俺へと語っていく……こちらとしても無用な混乱を招かないというメリットはあるかもしれないが――ここで俺は、わざと敵意を込め相手に尋ねる。


「取引というのは、何だ?」

「私達が求めるのはさっき言ったとおり数ヶ月の停戦。具体的な日時は後々決めるとして、その間は互いに干渉しないことを約束する」

「時間が欲しいというわけか……つまりその間に、ラドル公爵に仕込んだ魔物化……その力を、さらに向上させて自分自身も強化する、と?」


 俺の問いにエイテルは「ええ」とあっさりと応じた。


「正直セリスが倒せるとは思っていなかったし、さらに凶暴化したこともこちらとしては予想外だった」

「本来ならもっと公爵が力を操れる想定だった?」

「というより、暴走しても手綱を握れると思っていたのよ。そういう仕込みもやっていたけれど、どうやら力が大きすぎて手綱そのものを噛みちぎられちゃったみたいね」


 肩をすくめるエイテル……仕込んだ力は強大だったが、彼女としては実験失敗という結果だろうか。最終的に被害もなく倒せたのは幸運だったが、彼女としても暴走して町や村を無茶苦茶にするのは本意ではなかった、というわけか。


「……つまり、あの力を制御するために、数ヶ月が必要だと」

「そういうこと」

「で、そちらは同時に戦争準備も進める」

「そうね」

「……帝国を可能な限り傷をつけないようにする、という点についてはセリス達の望みと合致はしている。とはいえ取引というのであれば、こちらにもメリットがないと受け入れることはないだろう。何をしてくれるんだ?」

「あなた達に、組織の情報を開示するわ」

「――は?」


 思わず聞き返した。情報を開示って……。


「つまり私が組織の情報を全て渡す。残る拠点の場所や、組織の構成員を含め全て」

「……情報、か。ただそれ、正確な情報なのかこっちとしては判別できないだろ?」

「情報を得たら、人を派遣して拠点の位置を確認すればいい。組織の構成員については、私から得た情報に基づいて調査すれば、裏はとれるでしょう……ああそれと、もう一つ重要な情報が。魔物化を仕込んだ人間についても、全て公開するわ」


 まさかの……こちらが沈黙していると、エイテルはさらに語る。


「複数魔物化を仕込まれた人間を確認できれば、そういった人間を判別する魔法くらいは作成できるでしょう」

「疑うのであれば魔法を作成して、本当に魔物化を仕込まれているか確かめればいいと」

「そういうことね。ただし、手を出すのは厳禁よ。私達は停戦……不戦協定を結びたいの。もし協定を結んで以降、誰かが捕まったりすれば――」

「ただちに戦争を開始する」

「そうよ。私達の方も準備は整っていないけれど……セリス達の方だって、それは同じでしょう? 大規模な騒乱による血を見たくなければ、取引に応じる方が賢明よ」

「……取引についてはわかった。セリスに伝え、受け入れるかは判断すると思う。ただ」

「ただ?」

「停戦期間を決めるとのことだが、その間そちらが絶対に動かないという保証はないんじゃないか?」


 俺の問いにエイテルは「そうね」とあっさりと同意した。


「けれど、取引を受けなければ戦争確定よ? 私達が実際に戦争を仕掛けようとするのかについては、提供した情報により拠点でも監視すればわかることではないかしら」

「……わかったよ。あ、ならもう一つ質問。この提案、他の組織幹部に話が通っているのか?」

「いえ、私の独断よ。だから情報提供についても、構成員に言ったら白目を剥くでしょうね」


 ――無茶苦茶だな。たぶんエイテルは、皇族側と探り合いを行いつつ、魔物化の実験を進め戦争準備を行うつもりだったのだろう。

 しかし、セリスの態度を見て判断を変えた……取引を提案すれば通ると考えた。


 こちらとしてもメリットはある。それに、数ヶ月後決戦だということがわかれば、俺は修行に専念できるし、セリスもミーシャと手を組んで色々と対策ができる。


『……皇族側の判断がどうなるかわからないが』


 ここでジャノが話す。


『調査に時間を取られないで済む分、エルクとしてはメリットがあるな』

(……そうだな)


 内心でジャノに同意しつつ、俺へエイテルへ向け結論を述べる。


「俺はセリスへ伝えるが……取引を受け入れるかはわからないぞ」

「大丈夫、私の思うとおりになるわ」


 自信を込めてエイテルが応じた……それに俺は相手を見返し――やがてセリスの師匠は部屋から立ち去った。


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