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深夜の客人

 ――深夜、俺はふいに目が覚めた。


 明かりは消しているため部屋の中には月明かりだけが存在し、うっすらと部屋の輪郭が見える……ベッドの上でぼーっと天井を見上げつつ……そこでなんとなく違和感を覚えた。

 のそりとベッドから起き上がる。次いで俺は明かりの魔法を使用。ベッドの周辺を照らす。


 部屋全体を照らすほどの光量ではなかったが……なんとなく部屋の中を確認したかった。それは予感がしたのか、それとも他に――


『どうした?』


 ジャノが声を上げる。俺はそれに答えることなく部屋を見回す。

 部屋の中には誰もいない……当然だ。部屋の鍵は閉めているし、そもそも寝ていても誰かが近づいてきたのであれば、気付くようになっている。


 ただ、何か……俺はベッドから出た。さすがに部屋の外へ出ることはしないが、なんとなく色々と確認をしたくなった。


(ジャノ、何か感じるようなものはあるか?)

『……部屋の周囲に誰かいると?』

(あくまで可能性の話だ)

『ちょっと待て……ふむ、部屋の周囲に気配はないな』


 なら気のせいか……そんな風に思ったのだが、


『だが、この場所から上の位置に人の気配がする』


 思わぬ言葉だった。上の位置……?


『皇族の誰かかと最初思ったが、違うな。この気配は明らかに建物の外にある』

(外……帝宮の外、深夜に誰かがいるってことか?)


 あまりに不可解だが……俺は窓を見る。さすがに窓を開けて外を確認するのは……まずいか?

 とりあえず窓へ近寄る。外には漆黒が広がっており、さすがに夜も更けた今では街の光も皆無だった。


(気配か……気になるけど、明日セリスに報告すればいいか?)

『その方がいい――いや、待て』


 突如ジャノが声を上げた。


『気配が近づいてくるぞ』

(えっ……!?)

『明かりの魔法で起きていることに気付いたな』


 消した方がいいのか……いや、今更消しても間に合わないか?


(ど、どうする!?)

『……ふむ、近づいてくる気配はどうやらエイテルのようだ』


 しかもセリスの師匠――これはさすがにまずいのでは?


『だが、今ここで明かりを消して寝たふりをするわけにもいくまい……眠れないということにして、起きていたというフリをして誤魔化す以外に方法がないのではないか?』


 ……演技、できるかどうか。でも、さすがに「なんだか違和感があったので調べていた」と言えば、向こうは俺のことを怪しむだろう。

 よって、ここは外の気配など知らないとして、ジャノの言う通り誤魔化すしかない……。


「とりあえず、本でも読んでいるフリをするか……」


 ベッドの傍らには書斎にある本を一冊拝借して寝る前に読んでいる。俺はそれを手に取り、ベッドに腰掛けパラパラとめくり始めた。

 ……エイテルからしたら、明かりが付いているから様子を窺うくらいのことかもしれない。だとするなら、本を読んでいるのを確認すれば退散してくれるはず……怪しまれる可能性は相当低い、と思うんだけど……果たしてどうなるか。


 俺は窓の外を見たくなる欲求を抑えつつ、本を読む。とはいえあまり内容は入ってこない。やがてジャノが『窓の近くにいる』と言い、俺は無言のまま本を読み続ける。

 とりあえずジャノが離れたと報告するまで、この体勢を維持し続けるしかない……そんな風に考えた時、予想外の出来事が起こった。


 コンコン、と突如窓にノックの音が。さすがにそれを聞いて首を向けないわけにもいかず、視線を向けるとバルコニーに昼間の格好をしたエイテルが立っていた。


 ――とりあえず、目を見開いて俺は驚く。気配は捉えていてもまさか俺の所まで来るとは思っていなかったので、半分演技半分驚愕、といった案配だ。


『少なくとも敵意はなさそうだ』


 ジャノが言う。俺はここで覚悟を決め本を閉じて立ち上がると、窓に近寄って開けた。ちなみに相手は笑顔。その笑みは果たしてどういう意味か――


「こんばんは、エルク君」

「……あの、窓から入ってくるというのは……?」

「少し夜風に当たりたくて、城の外をこう、ふわふわと漂っていたのだけれど」


 さすがにそれは嘘だろう……困惑した視線を送っていると、彼女は笑みを浮かべた。


「ええ、わかっていると思うけど嘘よ。事情説明してもいいけれど……その前にあなたは何をしていたのか聞かせてもらえる?」

「単に寝付けなくて、本を読んでいたんです」

「環境が変わったため、かしら?」

「たぶんですけど。昨日は眠れたんですが……」

「仕方がないわ。その内慣れると思うし、それまで我慢するしかないかしら」


 エイテルは言いつつ、俺へ一歩近寄る。

 ちなみに俺は白い寝間着姿である……まあ、ここで「寝間着ですいません」というのも変なので、言及はしないけど。


「……そうね」


 そしてエイテルは一つ呟いた。俺を見て何を思ったか……呟きから少し間を置いた後、彼女は口を開いた。


「少し話をしても?」

「はい、構いませんけど……」

「ありがとう、そうねえ……エルク君」


 笑みを絶やさぬまま……彼女は俺に問い掛けた。


「私と、取引をしないかしら?」


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