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頂点

「エルク、昼食後すぐということで悪いけど……」

「いや、俺もセリスと話そうと思っていたから」


 部屋を訪れたセリスを迎え入れ、俺達は椅子に座り話をする。


「今から動く……つもりなんだよな?」

「うん、エルクもわかっているみたいだけど、すぐにでも動いた方がいいと思う」

「陛下は時間稼ぎをするとは言っていたけど……」

「調査を進めるにしても、時間的に余裕は持たせたいし」


 それもそうだな……俺は頷きつつ、


「それで、第一の方針は……セリスの師匠と顔を合わせる、か」

「危険であることは間違いないけど、情報を得ることができる可能性が一番高いからね」


 ――皇帝陛下との話し合いで決まったこと。その中で特に大きいのが、セリスの師匠と俺が顔を合わせること。食事をとっている間に俺が来訪したという情報を回しており、これで帝宮内を動ける……まあさすがに一人で動くことはできないので、セリスと同伴という形だが。


 経緯としては、セリス自身が婚約者である俺を紹介するという形……その際に何か仕込みとかできればやりたいけど、相手が相手だしさすがに挨拶するだけに留まるだろう。ジャノについても極力気配を抑えて隠しつつ……それでいて可能な限り探りを入れてもらう。


 少なくとも顔を合わせることで、気配を認識し索敵などもできるようになる……はず。正直セリスの師匠ということで、下手に動けば俺の力のことなんかも看破されてしまう可能性があり、非常にリスクを伴う方針ではある。

 だが、ここで何かを得ることができれば……組織が帝国内で争乱を引き起こすのを未然に防げる可能性が高まる。よって、危険は伴うが俺達が大きく事態を進展させることができるかもしれないこの方法をとるという結論に至った。


「……ジャノ」


 ここで俺が声を発すると、漆黒の球体が姿を現す。


『うむ、我が気配を探る役目だな』

「そうだな……ただ相手は非常に手強い。無理はするなよ」

『わかっている……より注視すべき点は顔を合わせた際、エルクに対する眼差しだな。組織側としてはエルクが公爵を倒したということを含め、力を持っている点についてはわかっていないはず。だが』

「皇族に内通者がいる場合、俺のことは露見している」

『うむ、まずはそこをしっかり見定めるだけでも、状況を大きく変えられるだろう』

「相手が演技をしている可能性は高いだろ?」

『しかし事情を一切知らない状態と、情報を持って演技をしている場合では、態度が多少なりとも変わってくるはずだ』

「問題はそれを見分けられるかだけど……」

『魔力の揺らぎなどを含め、総合的に判断する……この辺りは任せてくれ』

「もしかして、何か手段を構築したのか?」


 俺が問うと漆黒の球体はわずかに揺らめいた。


「我が持つ力の扱い方の中で、心情を深く洞察する技法もある。やろうと思えば心を読む手法なども作れそうだが、それは相手に魔力を付与する必要性があるため実現できても今回の作戦には適さない」

「バレたらその時点で動乱が始まるかもしれないからな」

『うむ、よって心情を洞察する技法を使い、見定める……後々エルクにも教えるつもりだが、今は無理だ』

「何か理由が?」

『単純にエルクに教えるための時間が足らない』

「……まあ、ジャノがやってくれるなら今はそれでいいさ」


 それに、俺自身が探るような動きをすれば、それだけで気取られかねない……。


「セリス、何か気をつけておくことはあるか?」

「力を露出さえしなかったら、穏当に接することはできると思う」


 とにかく、力が露見してしまうことに対し細心の注意を払う……ただ、逆に気にしすぎてもまずいかもしれない。難しいな。


「……そういえば」


 俺はふと、あることに気付いた。


「セリスの師匠について……俺はあんまり詳しくは知らないんだけど」

「そこについては、顔を合わせてから説明した方が良いんじゃないかな」


 俺の言葉に対しセリスはそう返した。


「まずは何も情報なしに見て、師匠のことをどう思うのか……エルクの感想を聞かせて欲しい」

「……わかった」


 セリスの師匠が俺に見せる態度。そして俺の目にどう映るか……こちらは組織の幹部であるという情報を握っているが、それを悟られてはいけない。

 俺が事前に持っている情報は、セリスの師匠にして現在帝国における魔法使いの頂点に近しい場所に立っているということ……実戦経験を重ねるセリスとどちらが強いのかはわからない。だが、師匠――エイテルもまた傑物である、ということを人の話で聞いたことがある。


「……確認だが、セリス。名目としては帝宮内を案内している、ということでいいのか?」

「うん、ラドル公爵の件で聞き取り……そのついでに帝宮内を案内、かな」

「偶然を装う……それとも、セリスが会わせたかったという風にする?」

「会わせたい、という風にしよう。偶然だと演技しないといけないし、それで変な態度をとって怪しまれるのも嫌だし」

「……そうだな」


 方針は決定。よって俺とセリスは――行動を開始した。


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