特殊な場所
セリスが部屋を去った後、俺は持参してきた荷物を窓際にあるテーブル……そこに備えられた椅子に置いた後、窓の外を見る。バルコニーがあり、その向こうには町並みがあった。
帝宮における上階であるため、見晴らしが良い……皇族が暮らすエリアが帝宮の上階にあるはずなので、ここはそれに近いのだろうか?
「いや、さすがにそこまでの待遇は……俺の立場としてはどんな感じだろうなあ」
ラドル公爵に関して聞き取りをするということで、重要参考人扱いであるのは間違いないと思うのだが……。
『次に皇女が来た時に話し合いを行い、そこからはひたすら待つことになるかもしれないな』
ふいにジャノが発言する。先ほど話し合いで漆黒の球体が姿を現していたが、現在は既に消えている。
「そうだな……組織としてはラドル公爵に関する人間として俺のことに注目する可能性は高いけど……手を出してくるかは未知数だな」
『もし手を出してきた場合に備え、どう動くか打ち合わせでもしておくか?』
「そこはセリスと話し合いをしないといけないな……とりあえず、警戒の意味を込めて部屋の中に仕込みでもするか?」
『音もなく近づく暗殺者など、対策をしておかないと面倒な敵もいるからな。準備をしておくのは良いだろう』
「とはいえ、大がかりなものとかは気付かれる可能性がある……組織の人間に察知されないよう、部屋に侵入する人間を感知する仕込みをしないと。ジャノ、何か案はあるか?」
『我の力を利用すれば、魔力を隠しながら仕込みは可能だ』
「魔力を隠しながら……か。ならその方法で、この部屋に近づいてくる存在について感知できるよう処置をしよう」
『ならば手法を説明しよう』
――俺はジャノの指導を受けつつ、仕込みをやっていく。何が起こるかわからない以上は、やれることはやった方がいい。
『しかし、この部屋に滞在するのはわかったが、街に出ることもできなさそうだな』
作業をしているとジャノが口を開いた。
『エルクはそれで問題ないのか?』
「観光に来たわけじゃないからな。セリスの師匠を含め、組織の人間が動き出しても対応できるように……ということだから、帝宮にいた方がいいだろ」
もし観光をするにしても、全てが終わってからでいい……そんな風に考えた時、俺は作業を終えた。
「これでいいかな……さて、ジャノ。問題は修行ができるかについてだが」
『訓練をするにしても、まさか中庭でやるにもいくまい。ここは部屋の中でやれるように色々と準備をすべきだな』
「お、もしかして考えてくれたのか?」
『まあな』
これは頼もしい……そこでジャノは色々と説明を始めた。
『部屋の中に結界を構築して、内外の魔力を遮断する。この部屋はどうやら魔力も漏れないようにしているようだから、自主的に隔離する結界魔法くらいは、使用しても感知されることはないだろう』
「……人をかくまう場所だから、魔法による捜索なども防ぐべく処置してあるというわけか」
この部屋はある意味、非常に特殊な場所なのだろう……そんな風に考えていると、ジャノはさらに解説を続ける。
『結界は少なくとも数時間はもつため、修行をやるには問題ない』
「けど、派手なことはできないな。ただ剣を振り続けるだけでも、力が暴走する危険性を考えると……」
『ルディン領にいた風に修行はできないが、やりようはある。結界さえ構築できたら問題ないくらいにはやれるだろう』
なんだか自信を覗かせるジャノだが……俺はここで少し気になって、
「ジャノ、ずいぶんと乗り気だな。帝都へ来るまでに色々と考えていたみたいだ」
『そうだな……ふむ、丁度良い機会だろうから、エルクには伝えておくか』
……伝えておく? 疑問に思っているとジャノは俺へ告げる。
『我が所持していた力を、エルクは魔物を倒すことで強化された』
「ああ、そうだな」
『現状では今以上に力を得ることはできないため、修行を行うことで強くなろうとしている』
「ああ、それが今だな」
『ここについては正しいと考えている。というより、他に方法もなかったからな。エルクが所持している力を修行によってより活用……成長は間違いなくできているが、果たしてラドル公爵が得ていたあの凶悪な力に対抗できるのかは……不明だ』
俺は頷く。そこについても理解している。
『今は単独で凶悪な存在を倒せるよう修行しているわけだが……我は可能になると考えている。だが相手もラドル公爵が滅んだとあっては、対策を講じるだろう』
「相手がの技術力が上回るか、俺の成長性が上を行くか……という話だな」
『うむ、そうだ。その中で――』
ジャノは少し間を置いた後、言った。
『切り札、と呼べるものがある』
「……切り札?」
思わず聞き返す。ジャノがそう言うのであれば、よほど強力みたいだが……沈黙していると、ジャノはさらに俺へ話を続けた。




