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帝宮の一室

 馬車はやがて帝宮の敷地内に入り、馬車は停止してようやく地に足をつけることとなった。俺はセリスの案内を受けて帝宮内へと入る……彼女の婚約者という関係から幾度か帝宮内に入った経験はあるが、どこに何があるのかはさっぱりわからない。まあ基本的にはあてがわれた部屋の中でおとなしくしているつもりなので、セリスの師匠が干渉してこない限りは問題ないだろう……そこが一番の問題なのだが。


 俺とセリスは帝宮内の廊下を進み、さらに幾度か階段を上り、俺は客室に通された。そこはずいぶんと広い部屋で、どうやら帝宮でも上階に当たる場所のようで……賓客扱い、というわけか。


「ここで当面の間は過ごしてもらうから」


 セリスが言う。俺は小さく頷くと、


「無闇に外に出ることはないけど……滞在中、注意しておくこととかはあるか?」

「部屋の中であれば自由にしていて問題はないよ。あ、ちなみにこの部屋はお風呂場とかもあるから、食べ物さえ用意しておけば部屋の中で生活できるよ」


 ……マジか。部屋を見回すと確かにそれらしいドアがある。


「ちょっと見てもいい?」

「うん」


 ――許可が出たので部屋の中にあるドアを調べてみると、風呂場に加えてトイレまであった。風呂場は個人用のもので湯船もちゃんとある。


「……水って出るのか?」

「魔法を利用した素材で、色々と」


 便利だなあ……。


「どういう意図で作られた部屋なんだ? ここ」

「帝宮には色々な人がいて、中にはかくまう必要性がある人もいる……この部屋はそういう人に用意されたみたい」


 ……こんな部屋を用意している時点で俺としては驚きだが、政治的な意味合いとか、色々な理由があってこの部屋は存在しているのだろう。

 また別の部屋には書斎もあった。暇を潰すこともできるらしい。


「それと、使い魔を生み出す魔法の道具もあって、それを使えば部屋の中を清掃してくれる」

「そこまでやるか……徹底的に人を入れないようにできるわけか」

「唯一、食料は持ち込まないといけないけど……エルクは召喚命令を受けてここにいるわけで、隠しているわけじゃない。食事はこの部屋でとってもらうことになるけど、わざわざ食べ物を持ち込む必要はないかな。飲み物とお菓子くらいは用意するけど」

「……組織としてはどう動くだろうな」


 俺の疑問に対しセリスは沈黙。わからない、ということだろう。


「俺の力について露見している可能性は低いから、出歩かなければ問題はないと思うが……警戒に警戒を重ねるなら、食事にも気をつけるべきか?」

「……毒でも入れられる可能性があるってこと?」


 セリスの問い返しに俺は頷いた。


 さすがに組織の人間が俺を標的にする可能性は低い……と思うのだが、確率はゼロじゃない。ラドル公爵について聞き取りをするというのが名目であるため、余計な情報を喋る前に始末する、などという可能性も否定はできない。

 ただ、国としてはそんな事態とならないよう警戒はする……この辺りは政治的な思惑でどうなるかは変わるだろうけど――


「セリス、どうする?」

「……食事についてはこちらも可能な限り注意するけど、エルクが警戒するというなら、私が食べ物を持ち込むけど」

「うーん、そうだな……ジャノ」


 俺はここでジャノに呼び掛ける。そこで俺の真正面に黒い球体が出現した。


『どうした?』

「食事に毒が入っている場合、俺はどうなる? 例えば、力を持っているため毒に耐性があるとか……そういうことはあるのか?」

『エルクは力によって確かに強化されている。毒については……体が強化されていることで、多少なりとも耐性はあるだろう。だがどのくらいのものなのかは不明だ。かといって試すことも無理であるため、警戒をするのであれば毒を摂取しないように立ち回るべきだが……』

「そうか……とはいえ、何故そこまで警戒する? と相手に疑問を持たれる可能性はあるか。毒が混入しているかどうか、確かめる魔法でもあれば楽なんだけど……」

『あるにはあるぞ』

「え、あるのか?」

『ただそれは毒を見つけ出すというよりは、異常なものがあれば察知するといったものだが……問題は毒に対しどこまで有用なのかは検証しないとわからない』

「そうか……セリス。とりあえず食事は持ってきてくれ。ただ、さっき言ったように飲み物とかは別にあった方が嬉しいかな。間食くらいはしてもいいだろ?」

「うん、問題ないよ。そこについては今から準備する」

「よし……ならセリス。今一度確認だが俺がここを訪れた名目はラドル公爵に関する聞き取りをするため。けれど実際は――組織との戦いに備えて、ということでいいんだな?」

「うん。ただ名目上とはいえ、ちゃんと聞き取りをする時間は設けるよ……そこで、本来の目的についてちゃんと話し合おう」


 セリスが言う。俺はそれに小さく頷き承諾したのだった。


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