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婚約の必要性

「……あの、さ」


 口を開く。セリスと目を合わせつつ、俺は――


「例えばの話だけど」

「うん」

「……実力を得ることでセリスと対等な関係になりたいと言ったら、どう思う?」


 例え話とか言ってしまったけど……セリスは最初小首を傾げた。どういう意味だろう、という風に疑問を抱いた様子。

 だが、俺の言葉を頭の中で咀嚼して……そこから、セリスは視線を落とした。何か考え込むような仕草を見せた後、彼女は――


「……セ、セリス?」


 そのまま動かなくなった。というより、俺の目からはっきりとわかるくらい、落ち込んでいる……。


「どうした?」

「……そっか、そういうことか」


 何もかも合点がいったような声を上げた。怒られるかな、などと思っていたのだが、どうやらそういう風にはならないみたいだけど。


「うん、エルクの言いたいことはわかった」

「……その、どう思う?」

「正直なところ、私はエルクが力を得る必要はないと思う。ルディン領に危機が迫ったとしても、それを解決するのはエルクに仕える騎士の役目だし、国が動くべき話だと私は思うから」

「まあ、そうだよな」


 ……力を求める前は、そんな風に考えていた。そもそもルディン領は人が来ることは少ないため例えば戦争とかに巻き込まれる危険性は少ない。盗賊とか山賊とかの類いはいるにしろ、領地自体がはっきり言って豊かとは言えないし、好き好んでやってくる賊の類いもほとんどいなかった。

 ルディン領の脅威としては間違いなく山岳地帯からやってくる魔物……ではあるのだが、そこの対策はきちんとしている。それに、対処に困った場合についてもきちんとマニュアル化はしてある。魔物が身近にいるからこそ、可能な限り対策を施す……これは当然のことだ。


 よって、俺自身が力を得る理由は薄い……セリスは俺が本心を話し出すまでは尊重すると言って深く追求はしてこなかったけど、疑問には思ったはずだ。

 けれど、実際は――セリスは全てを理解したように、話を続ける。


「帝国の端っこにいるエルクは、社会的な意味でも政治的な意味でも、上へと進むことはできない……仮にやろうと思っても、たくさんの障害で阻まれることになる」

「そうだな。そんなことをすれば領民にも影響が出る……自分勝手に望んだものだ。無茶な方法だと考えたし……何より、地位を上げるという方法では俺の願いは遅すぎる」


 その言葉にセリスは目を細める。


「遅すぎる……か。いずれ、私の口から婚約を解消してくれと言われる。そんな風に思ったから?」

「……先に言うけれど、俺はそう言われたらおとなしく引き下がるつもりではあったよ」


 その点については偽ることなく告げる。


「俺が求めたのは、今の立場を維持できる可能性……それを得ることだ。俺は辺境の領主だ。政治的な意味でセリスのことを絶対に繋ぎ止める方法なんてない。でもせめて、自分の力で何かできることがあれば……考えたのが、力を得ることだった」

「……うん、それは理解できる。きっとエルクにはその方法しかなかった」

「だろう? だから俺は公爵に相談をした……してしまった。その結果、ジャノという存在を手にした。まあ、最悪の未来が待っていたことを考えると、公爵に相談したこと自体、まずかったんだろうけど」


 俺の言葉にセリスは何も答えなかった……馬車内に沈黙が生じる。俺の方は彼女がどう喋るか待つ構えだった。

 少しの間、車輪の音だけが響く。空気は重いし張り詰めていたが、それでも俺はただ待った。果たしてセリスは――


「……エルク」

「ああ」

「いずれ、帝国は婚約を解消すると思った?」

「……例えばの話、セリスがそれを望む、望まないにしても帝国としては皇女である以上、考えなければならなかっただろう。俺は帝国の政治状況とか完璧に理解できているわけじゃないけど、セリスにはそれこそ婚約の話なんて星の数ほど来ているんだろ?」


 彼女は何も答えなかった……が、その無言が肯定であることを、俺はなんとなく理解する。


「セリスだって自分の立場は理解しているはずだ。皇女である以上……政治的な思惑から婚約関係に変化が生じてしまうことも、わかっている」

「うん、確かに」

「今、リーガスト王国との関係は良好だ。そしてミーシャ王女が女王になって、理由もなく山岳地帯を実効支配することだってないだろう……元々政治的な意味合いで結んだ関係だ。必要がなくなれば、いずれ取り消されてもおかしくない。というより、むしろ今まで取り消されていないというのが不思議じゃないかと俺は思ってる」


 その言葉にセリスはまたも沈黙する……俺の見解は伝えた。果たして彼女はどう答えるのか。

 さらに沈黙が生まれ、俺はひたすら待つ……そしてどれくらい時間が経過したか。やがてセリスは思わぬ行動に出た。


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