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召喚命令

 鍛錬を開始してしばらくして、屋敷に帝都への召喚命令が届いた。それを運んできたのは他ならぬセリス――屋敷の人達は驚いていたが、俺は淡々とそれに従った。

 既に準備は済ませており、重臣達に帝都へ行っている間のことを頼んで、迎えの馬車に乗った。そこからは馬車に揺られ、街道を進むことになる――


「……エルクが帝都に赴いたのは、どのくらい前だっけ?」


 馬車には俺とセリスの二人だけ。今回召喚状を持ってきたのがセリスであったのは、帝国側の配慮か、それとも俺が力を持っているため、他の人間には任せられないと判断してか。


「前は十三の時、だな」

「もうそんなに前か」

「帝都は一年で様変わりすると聞く。俺が頭の中にイメージしている状況とは大きく違うんだろうな」


 その言葉にセリスは小さく頷き、


「ただ、根本的なことは何も変わっていないと思うよ」

「根本的?」

「帝都で暮らす人々……そして国のあり方。そこについては何も変わっていない」

「そうか……セリス、俺は力を得たわけだが、そこについて陛下を含め思うところはあるのか?」

「まず、現状ではあなたに頼らなければならないのは事実。そうである以上は私を含め皇族はあなたに協力を依頼し、報酬も用意する形をとる」

「報酬……か」


 俺としては特に必要ない……いや、領民の暮らしが良くなるのであれば、それに越したことはない。


「報酬については話し合う必要はあるかもしれないけど、領民の暮らしに反映するもので頼む」

「わかった、伝えておく……個人的なものはいいんだ?」

「俺には必要ない、かな」


 力を得たいという考えがあったわけだけど、それは果たしてしまったし……返答した時、セリスが俺をじっと見ていることに気付いた。


「どうした?」

「……これはあくまで個人的な質問になるから、答えたくなければ答えなくていいけど」

「ああ」


 俺はどういう質問なのかを確信しつつ相づちを打つ。


「エルクは……どうして力を得ようと思ったの?」

「理由はいくつかあるけど、領民を守るため……という意味合いもあった」


 俺はセリスの問い掛けに応じる。


「セリスから言わせれば、俺が力を得なくても……そう思うところだろうけど、セリスを間近に見ていたからこそ、そういう考えが生まれたのかな」

「私……?」

「あ、もちろんセリスが責任とか感じなくていいよ。あくまで俺が勝手にそう考えたってだけの話だから」


 俺はそう言い、セリスは表情を変えない……のだが、自分が何かしら影響を与えた、ということについては思うところがある様子。


「魔法使いとして成長していくセリスを見て、俺も領民を守るため色々やらないといけないと思ったのが大きな理由かな……ただ、魔法の道具で簡単にという安易な考えではなかった。その、ラドル公爵に依頼をしたのも、あくまで鍛錬などで強くなるのを前提としていた……いや、俺はそんな風に考えていた。でもまあ、公爵にはそこを突かれてしまったわけだけど」

「……私自身、ルディン領の人間でない以上はエルクの考え自体に口を出すつもりはないよ。それに、エルクの考えることも尊重したいし……ただ、相談くらいは欲しかったな、と思っただけ」


 ――力を得ようとした理由について、セリスのことも大きく関係している点はまだ言及していない。


 それを今、話すべきなのだろうか? ここに来ても、そこについては迷いがある……ただ、今後セリスの師匠が出てくるのであれば、心理的に色々と揺さぶってくる可能性はゼロじゃない。

 となれば、きちんと話をしておくべきか……彼女は怒るだろうか。俺は頭をかきつつ、


「……セリス」

「うん」

「その……」


 どう話したものか、と思い言葉を選び始めた時、セリスはこちらの心情を察したのか、


「話しにくいなら、無理に話をしなくてもいいんじゃない?」

「……いや、そうもいかないだろ。相手はセリスの師匠だし、ラドル公爵は俺に魔法の道具を持ってきた……それはつまり、俺が必ず道具を手にするという根拠があった。つまり、俺が考えていることはお見通しだったということになる」

「そう、だね……」

「その情報は、セリスの師匠にだって伝わっているかもしれない……きちんと話をして、もし戦いとなったら心理的に揺さぶられないようにしないと」


 とはいえ、言わば俺の恥部みたいなものなので言いにくい。まあ、俺が力を求めた理由を共有することでどれだけ意味があるのかわからないけど……もしセリスの師匠と対面した時、動揺を誘うためにそのことを話すかもしれない。

 もしそうだったら、俺はきっと動きを鈍らせてしまうだろう……それが致命的なものになるかもしれない。世界を滅ぼす力であればなおさらだ。


 よって、今から話す……とりあえず深呼吸をする。セリスは言葉を待つ構え。俺はそれに感謝しつつ――意を決するように、話し始めた。


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