協力者の末路
俺が攻めるべく公爵へ仕掛ける――それをセリスは感じ取った瞬間、即座に俺に強化魔法を施した。
先ほど仕込んだ魔力を付与した際とは明らかに量が違う。剣に注がれた力は勝負を決定づけるだけの力が備わっていた。
いけると踏んだ俺は公爵へ真っ直ぐ突き進む。対する公爵もこちらの動きを察知して対抗しようと突撃を開始する。
どうやら待つだけではまずいと判断した様子。それは俺が握る剣の魔力量に反応したためか、それとも公爵が持っていた武人としての直感が残っていたか。
どちらにせよ、公爵もまた全力でこちらの攻撃に応じてくる……俺はその動きでも止まることなく剣を一閃した。公爵はそれに応えるように拳を放ち――再び激突した。
そしてそれが、最後の激突となった――俺の剣が公爵の腕を破壊し、斬撃は勢いが収まることなくその体を駆け抜けた。
これで決まらなければ、追撃で核を狙った刺突も考えていたが、その必要はなかった。刃が公爵の体を駆け抜けた時、俺はこの一撃が体の奥底にある核を斬ったと、感覚で理解した。
そして公爵の体が剣戟の衝撃に耐えられず、数メートル吹き飛んだ。体躯は倒れ、動かなくなり……再び、体がボロボロと崩れ始めた。
残っていた黒い炎が、体を焼きながら次第に消えていく……俺は今度こそ公爵が滅びに向かっていると断じた。もう復活することはない。魔物化の根幹を支えていた核が、完全に砕けたため――
「倒したようですわね」
ミーシャが俺に近づいて口を開いた。
「まさか既に公爵に手を回していたとは……余計なことを喋らないよう、仕込みをしていたということでしょうか?」
「どう、だろうな……セリスは師匠の仕業だと推測していたが、こんなことをした犯人にでも訊かなければ真相は不明だな」
俺はなおも公爵の体を見据えながら答える……そして、四肢だけでなく体も完全に崩れ、塵と化した後、俺は息をついてミーシャに言った。
「だがまあ、尋問などを避け帝都内で暴れてもらい混乱させるという点では、非常に有効だな」
「……リーガスト王国で、重臣を捕まえてもこのような事例はありませんでした。しかし帝国の場合は注意すべき、ということでしょうか?」
「これをやったのがセリスの言う通り彼女の師匠なら、こんな仕込みをできるのが師匠だけ、ということなのかもしれない……であれば、リーガスト王国にこういう事例がなかったのも頷ける」
「確かに、そうですわね……セリス、今回の事態について、国にはどう報告するのですか?」
「詳細はきちんと報告するよ。そして同様の事例があれば、エルクやミーシャがいなければ苦しいということになる。リーガスト王国のように組織の人間を捕まえて終わり、という話にはならないかもしれない」
「むしろ事を荒立てたら、帝国内が大混乱に陥るかもしれないな」
俺の発言にセリスは深々と頷いた。
「うん、どうすべきかは協議が必要だと思う」
……公爵にこんな仕込みをしている以上、組織に関わっていた人間誰もが同様の仕込みをされている可能性がある。正直、組織の外部協力者が全員こんな状況だったとしたら、無茶苦茶大変だ。
ここで俺は屋敷を見た。最初に公爵とぶつかった時、余波が建物に直撃したのだが……多少ダメージはあったが、被害としては最小限と言っていいだろう。
「……とりあえず、屋敷に入るか?」
問い掛けると同時、音が止んだためか玄関扉が開いた。出てきたのは騎士。様子を見に来たみたいであり、俺以外にセリスやミーシャがいることに気付くと、目を見開いた。
「……すまない、こんな状況だが来客だ。迎えの準備をするようみんなに言ってくれないか?」
俺の言葉に騎士は頷くと奥に引っ込んだ。
「二人とも、客室でいいか?」
「……うん」
「ええ、構いませんわ」
「今後のことを話し合うとしよう……セリス」
俺は彼女へ視線を移し、
「ジャノのことも話そうかと思うんだが、どうだ?」
「……そうだね」
「ん、何の話ですの?」
首を傾げるミーシャ。それに俺は屋敷の玄関を手で示し、
「それは話し合いの時に説明するよ……さ、どうぞ」
俺が手で示すと二人は屋敷の中へと入っていく。そして最後に俺が歩き出そうとした時、ふと公爵が倒れていた場所に目を向けた。
既にその体は滅んでこの場所にいたという痕跡すらもなかった。さすがに核を失い塵になってしまえば再生もしない。
だが逆に言えば、核さえ消えなければ再生できる可能性がある……今後、公爵のような力を持つ者と戦う可能性がある。加え、セリスの師匠――組織幹部であったとしたら、どれほどの力を持っているのか。
「……厳しい戦いが続きそうだな」
俺は確信と共に一つ呟き、ようやく歩き始める。屋敷に入ると、セリス達は玄関で立ち止まっており、俺は二人を先導する形で客室へと歩を進めた。




