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組織を生み出した存在

 剣が公爵の腕に入った直後、俺は確かな手応えを感じた。このまま一気に押し込めが腕どころか斬撃を体に決めることができる……その感覚を信じ、剣を一閃した。

 直後、公爵の腕が両断。次いでその体へと剣戟が叩き込まれ……公爵の口から、声が漏れた。


 魔物のような野太い声であり、理性なんてものも消し飛んでいるように思えた……そして黒い炎がボロボロと崩れ始める。

 どうやら倒せた……公爵は膝から崩れ落ち、四肢から徐々に塵と化していく。


「……公爵」


 セリスが呟いた。俺はそれを聞いて消え去ろうとしている公爵を注視する。


 望まぬ形で変貌を遂げてしまった皇帝の弟……組織に加担した末路。前世で俺が読んでいた漫画において、邪神に彼は消された。そして現実では俺がジャノに乗っ取られずに済んだたため、邪神の手にかかることはなかったが、それでも別の誰かによって悲惨な結末を迎えた。

 セリスによれば、彼女の師匠が行った所業ではないか――いつ仕込まれたものであるかはわからないが、公爵はどういう道を辿るとしても、帝国に反旗を翻し組織に協力した時点で、詰んでいたのかもしれない。


 そして公爵がこの場で滅びたとなったら、大きな騒動になる……元々捕まえようとしていたわけだが、それは叶わなかった。とはいえ、公爵の屋敷に立ち入って色々と調査をすることはできるだろう。

 セリスもそれをすぐに行いたいと考えているはず。俺は四肢が消え失せ倒れ伏す公爵を見ながら、彼女へ言った。


「公爵から情報を得ることはできないけど……」

「……ひとまず、報告に向かうよ」


 俺は頷く。そして公爵の体や頭がボロボロと崩れ始めた時、剣を鞘に収めた――その瞬間だった。

 ズオッ、と空間を発するような魔力が公爵から漏れた。何だ、と思い再び注目した矢先、大気がきしむような音が聞こえ、さらに公爵の体に魔力が取り巻いた。


「まさか……ここまで崩壊した状況から、再生するのか!?」


 俺は叫びながら再び剣を抜き、仕掛けようとした。魔力は渦巻き始めているが、体はボロボロだ。このままトドメを刺すことができれば――


「エルク!」


 セリスが俺の名を呼ぶが、それを無視して公爵へ肉薄。そして剣を放った。なおも異様なほどに魔力を出し続ける公爵に対し、斬撃が――当たる。

 刹那、さらに噴き出した魔力。その中で俺は、何か……吸い込まれるような感覚を抱いた。


『エルク!』


 ジャノの声が頭の中に響いた。だが俺は応えることができず――意識が、突如途切れた。






「……ここまで手を貸してくれたのだ。多少派手に動こうとも、あなたのことについては見逃すつもりではある」


 男性の声だった。気付けばそこは、真四角の部屋……ただ、見たことのない内装。そこはどうやら屋敷の客室で、室内には二人の人物がいた。

 片方はラドル公爵。もう一方は……長い銀髪を持ち、黒い貴族服を身にまとった二十代くらいの男性。容貌はあまりに美しく人間離れしており、果たして本当に人間なのかと思うほどだ。


 そして先ほどの声はその男性の声……ラドル公爵もいることから、これは公爵の記憶だろうか?

 剣でトドメを刺そうとした際、魔力から公爵の記憶を読み取っている……? そんな推測をしていると、公爵が声を発した。


「つまり、私が何をしても無視するというわけか」


 公爵はそう言った後、横へ目を向ける。そこにはテーブルがあるのだが、その上に一つ包みが置かれていた。

 あれはおそらく――ジャノを宿した黒い水晶球だ。


「ああ、自由にやってくれ」


 男性が応じる。それに公爵は目を細めた後、


「ずいぶんと気前がいいな……何か目論見でもあるのか?」

「いや、単純に礼のつもりだよ。そう疑う必要はない」

「ふん……まあいい、望むものは手に入った。後はこれをどう利用するか、だが」

「何かあてはあるのか?」

「無論だとも……とびきり有力な候補がいる」


 自信たっぷりに発言する公爵。有力な候補――それこそ、俺というわけだ。


「さて、君はこれからどうする?」

「研究も最終段階だ。組織内の幹部にも様々な思惑はあるが……私は私の望みを叶えるべく動くだけだ」

「望みなどあるのか?」

「叶えるために組織を結成した。当然だろう?」


 応じる男性……その発言が本当であれば、彼こそ組織を生み出した存在。

 帝国やリーガスト王国の重臣達を引き入れ、力を得た……世界を滅ぼす力を得て、この人物は何をしようというのか?



 漫画ではおそらく公爵と邪神エルクが好き勝手に暴れた結果、出番はなかった。しかし今は違う……最後の最後、俺はこの男性と戦うことになるのだろう。


「この屋敷へ来ることもおそらくない。次に会う時は、互いに望みのものを手に入れてから、だな」

「そうか……研究が終われば、動き出すのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「わかった。私も色々と動くことにしよう」


 ――そして男性は去った。客室が閉じられ、残された公爵は一つ呟く。


「どうやら、急ぐ必要がありそうだな」


 その言葉の直後、世界が白い光に包まれ……俺の意識は現実に引き戻された。


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