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黒い炎

「公爵は過去、武人として剣や槍を振るっていたという経験がおありだったはずですが……」

「うむ、とはいえ現役ではないし腕はだいぶさび付いているな」

「魔法に関する訓練などは……」

「経験はある。多少ながら心得も持っている」

「そうですか……」

「何かあるのか?」


 疑問を投げかけるラドル公爵。だが俺は何も答えない。

 ……俺の目からは、公爵から発せられる気配が常人のものとは違うことがわかる。しかし公爵自身は気付いていない。


 魔法に関してもある程度扱えるとしたら、ここまで気付いていないのは……。


「……公爵、ひとまず情報はお伝えしましたが」


 俺は話題を戻す。それに公爵は一つ頷き、


「うむ、それでは帰るとしよう」

「わかりました」


 俺は頷き、部屋を出る。そして廊下を歩くわけだが……この時点で俺はあることに気付いた。

 屋敷の人間は忙しなく働いているが、気付いていない……俺は玄関の扉を開ける。そして公爵が外に出た時、


「……何?」


 彼が声を発した。原因は明白――屋敷の入口、そこにセリスが立っていたためだ。


「お久しぶりです、公爵」


 彼女が言う。次いで杖を振った。

 公爵に何もさせず、彼女の魔法が公爵の体を拘束する。光の縄と言うべきものが公爵の腹部に巻き付き、簀巻きのような状態となった。


「申し訳ありませんが、動きを封じさせていただきます」

「皇女……何を……!?」

「あなたに露見しないよう密かに屋敷まで来ていた。その事実から、思うところはあるでしょう?」


 問い掛けに公爵の口が止まる……どういうことなのか、彼は理解した様子だ。

 だが、肯定などはせずセリスへ向け告げる。


「……セリス、馬鹿なことはよせ。こんなことをしても何の意味もないぞ」

「そこについては馬車の中でゆっくりと訊くことにします……では参りましょう、公爵」


 セリスが再度杖を振る。すると公爵は拘束されていながら足が動き始める。魔法に何か仕掛けがあって、強制的に歩かせているらしい。


「ぐ……」

「エルク、このまま私は帝都に戻る」

「……わかった」


 俺は返事をすると、そのまま見送る形となる……が、なおも公爵からは怪しげな気配がある。セリスはそれに気付いているのか?


「……ちょっと、待った」


 そこで俺は呼び止めた。するとセリスは足を止め俺へと振り返る。


「何?」

「あ、えっと――」


 公爵のことについて尋ねようとした――その時、拘束されたままである公爵の体が突如ビクン、と震えた。


「あ……?」


 次いで公爵の口から漏れる声。何事か、と俺とセリスが警戒を露わにすると同時、突如パキンと乾いた音と立てて拘束していた光の縄が弾けて消えた。

 そして公爵の体から――漆黒の力が噴き上がる。


「が……あああああっ!?」


 当人が一番困惑し、あらん限りの声を上げる。俺とセリスは公爵を挟んで後退。即座にこちらは剣を抜こうとしたが――公爵と話をしていたため、丸腰だ。


「――誰か! 俺の部屋にある剣を持ってきてくれ!」


 全力で屋敷に叫ぶ。玄関先にいた侍女が「はい」と返事をしたのが聞こえ、俺は再度公爵へ視線を移す。

 その姿が変貌していた。漆黒が噴き上がった後に現れたのは、全身が黒に包まれた公爵。まるで黒い炎に包まれているかのようであり、俺はあまりの変化に瞠目し、反対側にいるセリスも同様だった。


「……セリス、公爵から放たれていた気配、普通とは違っていたんだが気付いたか?」

「何だか様子が違う、という風に思っていたけど、これはまさか……」

「俺やミーシャが持っているものと同じ力、だな。けれど、公爵はどうやらこの力を持っているということはわからなかった……この変貌は、間違いなく望んだものではない」


 俺の言葉にセリスはそうだろうとばかりに頷いた。その間に後方から俺を呼ぶ声。見れば執事が俺の剣を抱えてやってきた。


「エルク様、これは……!!」

「扉を閉めて玄関から離れているように!」


 執事に告げると、一瞬彼の目が俺を射抜く。エルク様はどうされるのか――尋ねたかったが、セリスがいることもあってか、頷いてそのまま屋敷の中へ入った。


「とはいえ、玄関は目と鼻の先だ。逃げるわけにはいかないな」


 剣を抜く。その間も黒い炎をまとう公爵は動かない……が、発せられる気配は明らかに殺気が混ざっている。

 動き出すのは時間の問題……俺はセリスへ言う。


「俺がやる。セリスは援護を頼む」

「……わかった」


 セリスは一歩引き下がる。しかしそれに公爵は反応して一歩足を前に。

 公爵の背後に立つ俺は眼中にないのか……だがそれなら好都合。背後に屋敷がある以上、魔力を発してこちらに注目させるのもリスクがある以上――このまま背後から斬る。


 俺は足を前に出し間合いを詰めた。そして静かに剣へ魔力を注ぐ。

 一撃で決める――そんな思惑と共に、俺は公爵の背中へ向け、斬撃を放った。


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