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性急な態度

 その後、帝国内でもリーガスト王国の騒動が波及した。ただしそれはリーガスト側の混乱が波及したという話で、直接的に帝国側で捕まった人がいたわけではない。

 具体的に言えば、重臣が捕まったことによって政治が混乱。結果として物流など様々な分野に影響が出たという話だ。つまり間接的に影響があったというだけ。


 だがミーシャは既に帝国側と話をつけた。騒動が帝国内で起きるのは時間の問題……そうした中で俺は、ラドル公爵を屋敷へと招いた。


「わざわざすみません、公爵」

「いやいや、仕方があるまい。私の方は自由に動けるため、問題はないさ」


 客室に招き入れた俺に対しラドル公爵は柔和な笑みを浮かべる。


 彼にミーシャから情報を得てくれという依頼をされたわけだが、今日俺は情報を得たと公爵に伝え、その話をすることとなった……これは公爵が近くに来ており俺へ連絡を入れて実現したもの。彼としてはもののついでという感じだろう。


 本来なら「情報を得たので来てください」と言っても公爵としては「わざわざ行くのは面倒だから手紙で伝えてくれ」と言われて終わりだ。よってこの屋敷に呼ぶとしても少しばかり工夫が必要で、さてどうしようと悩んでいたのだが……公爵は早急に情報を求めたか、ルディン領の近くに来た際に俺へ連絡し、率先して屋敷にやってきた。

 彼としては色々な伝手を使ってリーガスト王国の状況を探ろうとしているのだろう……もし事が公になったら破滅するのだ。動き回るのは当然か。


「それで早速だが、王女からどういう話を聞いた?」


 ソファに座りながら公爵は俺へと尋ねる。お茶もまだだというのにずいぶんと性急だ。

 もしかするとまだ用事があるのかもしれない……そんなことを思いつつ、俺は口を開こうとした。その時、


「…………」

「どうした?」


 無言となった俺に対し公爵は問い掛ける。こちらは少し間を置いた後、


「ああ、すみません。つい先日、ミーシャ王女と顔を合わせる機会がありました。そこで話をしたのですが――」


 気を取り直し話し始める……内容は事前にミーシャやセリスから指示を受けたもの。公爵が欲するような核心的な情報ではないが、依頼されていた内容には合致するもの……端的に言えば、無難な回答というものだ。


 公爵が失望しないラインを選んで用意した情報……俺はあくまでひ弱な、力を持たない領主。皇女の婚約者であり、隣国と交流のある人間ではあるが、所詮は辺境の領主。俺に重要な話を語ることはない。

 だが、友人ということでそれなりに価値のあるものを……といった案配だ。


 そしてラドル公爵の反応は……俺が手に入れることができるだろう、という予測の範疇だったが、それでもまあ情勢を見極める要素の足しにはなっただろう、としてやや満足した雰囲気。


「うむ、情報感謝する」


 ラドル公爵は言う……うん、ひとまず話をしてこの屋敷に縫い止めることには成功した。


 俺はそんな公爵を見返しつつ、思考する……この屋敷に招いた時点で、既に作戦は始まっている。実は近くにセリスが来ている。屋敷内で俺がラドル公爵と話をする間に、彼女はここに来る手はずだった。

 偶然公爵が近くに来たタイミングで彼女も……というわけではない。公爵の行動を把握した上で、俺の屋敷に来る可能性が極めて高いタイミングを見計らい、セリスは準備をしていた。よって公爵を秘密裏に捕縛し、組織に関する情報を得る……公爵が捕まったという情報をどこまで隠し通せるのか。それが騒動の拡大を防ぐ重要な要因となるのは間違いなく、ここからは時間との勝負――の、はずだった。


 だが公爵と向かい合って俺は確信した……組織は間違いなく動いている。だがそれはきっと秘密裏に……組織の構成員や外部協力者に伝えていないような、幹部クラスの誰かが仕掛けたものだろう。

 もしかするとセリスの師匠だろうか……俺はふと、公爵へ質問をした。


「帝都の様子はどうですか? リーガスト王国の影響については……」

「物流面など混乱している部分もあるが、基本的には隣国の騒動であるため大きな影響があるわけではないな」

「そうですか……公爵を含め、政治に携わる方々が大変そうですね」

「まったくだ。色々と交流を深めてきたが、それが王女の活動によってご破算となった。関係を再構築するのも大変そうだ」

「……そういえば、セリス皇女の師匠であるエイテル=グローズン様なんかも、リーガスト王国とは深い関係でしたね」

「おや、何か知っているのか?」

「時折セリス皇女及びミーシャ王女の口から名前が出ていたので。ただ、どういう関係性だったのかまでは知りませんが」

「彼女も忙しいようだな。リーガスト王国に知り合いも多く、交渉の席などに駆り出されていたくらいだからな」

「公爵はグローズン様の仕事はご存じなのですか?」

「ああ、数日前に顔も合わせたよ」

「……そう、ですか」


 俺は少し間を置いて返答し……意を決したかのように、公爵へ一つ問い掛けた。

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