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今日できること

 ミーシャが動き出す間に俺とジャノはひたすら修行を繰り返す。手にした力をさらに有効活用するべく……ひいては世界を滅ぼすような魔物も単独で倒せるように……無茶かもしれないと思うところだが、俺自身は漫画のことを思い返せば不可能ではない……そんな風に考えていた。


 とはいえ魔物と戦うような実戦的なことはほぼできない。というより、自然発生するような魔物を相手に満足な修行ができるはずもない。

 よって、俺はジャノの指導を受けながらひたすら剣を振り続ける……だがジャノの指示はかなりキツかった。わざと負荷を掛けるようなやり方で訓練をするようにしており、相当大変……とはいえこれなら成長ができるという確信もあった。


「ただ、一日にやれる時間は限りがあるな……」


 負荷を掛けて剣を振るという行為だが、ジャノの手法は今の俺でもすぐに限界が来る。だがジャノは想定しているようで、


『人に悟られず、かつエルクの修行になる度合いはこのくらいだと考えたまでだ。剣を振り続けるだけだから、楽な部類だぞ』

「まあそうなんだけどさ……」


 ただ剣を振るだけで強くなっていくのだから、ある意味最高の修行ではあるんだけど……。


『次の戦いに備えて少しでも進歩していなければ、な』

「……あのさ、ジャノ。もし次の戦いがあるとすれば、どのくらい先だと思う?」

『わからん。明日かもしれないし半年後、一年後かもしれん。我らがやることは、明日決戦があるかもしれないのを想定し、今日できる限りのことをやるだけだ』

「……そう、だな」

『ともあれ、ミーシャ王女がまだ動いていない。おそらく国内における組織の人間……彼らを一網打尽にするため準備をしているのだろう。それが動き出した時点で、いよいよいつ戦いが始まってもおかしくはない形になる』

「帝国内でも色々とありそうだな……最悪なケースを想定した場合は――」

『ラドル公爵を始め、様々な人間が帝国に反旗を翻す……本来ならば組織拠点が壊滅しているため実行する可能性は低いはずだが、窮地に立たされれば人はどう動くかわからない』

「ただ待っているだけでは破滅になる以上、開き直って動き出すということか……」

『エルクが前世で読んだ漫画通りならば、その反乱は帝国を揺るがすほど大規模なものになる。そこには邪神エルクという旗印があったため、勢いはさらに増したと考えていい。しかしそういう存在はいない』

「反乱を起こすにしても、漫画ほど大規模にはならないと」

『反旗を翻すにしても、帝都に奇襲を掛けるといったやり方は戦力的にも難しい……となれば、ひとまず逃げてどこかにあるかもしれない組織の拠点に構成員や外部協力者が集結。その後、一丸となって攻撃を行う、といった形が戦力においてベストな形だろう』

「大規模な戦力を漫画では邪神エルクが担っていたが、それはない……この差は大きいが、対処を誤れば多数の犠牲者が出るかもしれない」

『犠牲を抑える方向で戦いたいのか』

「そうだな。ジャノ、できると思うか?」


 俺の質問に対しジャノは少し沈黙した後、


『敵の出方次第だな。被害を抑える役割を担うのは、ここを動けないエルクでは荷が重い』

「理由なく領外には出られないからな……頼みの綱はやっぱりセリスか」


 彼女は今回戦った魔物の恐ろしさを理解している。ならば、被害を抑えるべく――あるいは犠牲者を出さないよう尽力するだろうし、強さを把握しているからこそ作戦だって練れる。


「問題は俺に関すること……反乱が実際に起きてしまった場合、俺の助力する必要性に迫られるだろうけど、その理由付けについては……」

『まだエルクの力について内外に知られているわけではないからな……とはいえ、一つ手を思いついた』

「手を?」

『エルクが使用している力は漆黒……これは邪悪な要素はなく、ただそういう色合いをしているだけだが、見てくれが悪いため露見すれば面倒なことになるだろう』

「そうだな」

『だが、力をある程度制御できるようになった今ならば、見た目を変えることくらいはできるかもしれん』

「もしできたら、俺が表立って動けるようになるだろうか?」


 問い掛けにジャノは「やり方次第だ」と応じた。


『とはいえ、現在の修行も続ける必要がある。平行して作業を進めるとなれば、気合いを入れ直さければならんぞ』

「そこは大丈夫。覚悟は既にしているよ」

『では明日から、その作業も始めるとしよう』


 今後の方針が決まっていく……そこでふと考える。もし見た目を改善し、人の目を気にする必要がなくなれば、セリスと肩を並べて戦う日が来るのだろうか?

 場合によっては組織残党との決戦の際に……? 胸中で色々と想像しつつ、俺は鍛錬を続ける。本格的に戦いが始まるかもしれないという可能性を考慮しながら、ジャノの言う通り今日できることをやる……俺はひたすら、剣を振り続けた――


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