戦いの終わり
俺達は資料を回収した後、拠点については色々と処置をして地底を出た。時間的には昼過ぎといったところで、まだこんな時間なんかと内心で驚きつつ、本当に長い一日だと思った。
「帰りも転移魔法で」
そうミーシャは言うと、屋敷へ戻るための魔法陣を構築してくれた。それに入って屋敷に戻れば仕事は終了……なのだが、
「セリスはどうするんだ?」
「私もミーシャの転移魔法を使わせてもらうよ。行き先は決められる?」
「あまり距離はでませんわよ。ここからではルディン領あたりが限界ですわ」
「わかった。なら――」
セリスは転移先を告げ、ミーシャは作業を行う。そうした中で俺は一足先に戻ることにする。
「ミーシャ、さっきも言ったが何かあれば遠慮なく頼ってくれていいからな」
「ええ、ありがとうございます」
「セリスも、無理はしないでくれよ」
「うん、ありがとう」
二人に礼を言われた後、俺は転移魔法陣を踏み、景色が一変。気付けばミーシャと共に転移した場所に戻っていた。
「……これで、組織は片付いたのかな」
『相当な大物が相手なのだろう? 一悶着ありそうだな』
ジャノが言う。俺はそれに内心で同意しつつ、
「大貴族とか、セリスの師匠が幹部をやっているとしたら、大規模な遺跡発掘をする資金はいくらでも捻出できそうだな……おそらく、ジャノのような強大な力に関する研究や調査を行っていて、実際にそれを手に入れて実験をしていた、というのが大筋の流れかな」
『そうした解釈で良いだろう……その中でラドル公爵は組織から道具を譲り受けた。その経緯は不明だが、公爵は道具を利用し力をエルクへ付与した』
「本来ならその結果、俺は邪神エルクとなって世界を滅ぼすために動く……というわけだな」
『まさか組織も世界を滅ぼす存在になるとは予想もつかなかっただろう』
「かもしれないな……力を研究している点から、組織はこの力を利用し武力による帝国の支配を目論んでいた……その中でラドル公爵は邪神エルクと共に組織でさえも裏切り、自分自身の悲願……帝位簒奪を成し遂げようとした」
『筋書きとしてはおそらくそのようなものだろう……漫画の中ではそのような結末だったが、実際はそうならなかった……我がエルクに興味を持ったからな』
本当に紙一重である……わけだが、ここで一つ疑問が出る。
「俺の前世……漫画が未来の出来事を示していたとして……どういう理屈なんだろう?」
『さあな』
ジャノの返答はずいぶんとさっぱりとしたものだった。
『今回の騒動が解決したら調べてみるか?』
「それもいいけど……」
『ただここについては、ある可能性が高いと我は踏んでいる』
「……それは?」
『今回、エルクが関わった騒動……我が力を得たこともそうだが、この事件が何かしら関係していると我は考えている』
「……例えば、世界を滅ぼそうとする邪神が蘇るのを誰かが何かしらの形で知り、その対処として、というわけか?」
『うむ』
「時間軸というか因果というか、なんだか矛盾しているようにも思えるんだけど……」
『そこは解明したら納得がいくのかもしれん』
現状では情報が少なすぎるし、合理的な理由があった、という風にしか解釈できないか。
この点についてはひとまず置いておいていい。まずは何より、組織の拠点を潰したことによる影響だ。
「ジャノは今後どうなるか予想しているか?」
『組織としては重要拠点を潰され、しかも情報を握られてしまった……ということならば、まずは誰が情報を握っているのかを解明するべく動くだろう』
「拠点にいた魔物化の人間は全て倒した。現状、誰の仕業なのかについては組織側からしたらわからないか」
『うむ、ミーシャ王女が動かない限りは……よって、王女が大々的に動き出したタイミングで帝国内でも動きがあるだろう』
「そこはセリスが調べるかな……俺としては領地から動きようがないし」
『やれることはあるぞ』
「え、本当か?」
それは一体――問おうとした時、ジャノが続きを語った。
『重要拠点が帝国とリーガスト王国に跨がっていたとするなら、この周辺で組織の人間が活動するかもしれん』
「つまり、山側を索敵していれば組織の人間が見つかるかもしれないと」
『その通りだ』
「……重要な情報を握っている可能性は低そうだけど、俺としてはそういう風に活動するしかないか」
後は、引き続き修行を行う……当面の方針は決まったな。
「ミーシャの動き次第で俺の立ち回り方も変わる……上手くやってくれればいいけどな」
『何かあれば、すぐに連絡が来るだろう。敵組織の力に対抗できるのは現時点でミーシャとエルク二人のみだからな』
……セリスとしては悔しいだろうな。とはいえ、彼女も組織が持つ力について対抗できないとわかっているし、無理はしないだろう。
ひとまず、俺は敵が動くのを待つだけとなる……今のうちに修行を進めておくべきだな。
「ジャノ、明日から今日戦ったあの竜……ああいった敵が出現するのを想定して修行をやるぞ」
『わかった。しかし、単独で対抗できる領域にはいないと思うのだが』
「俺の力は漫画内で世界を滅ぼせる力だと言われていたし、それだけの災厄をもたらした。なら、やりようはあるんじゃないか?」
問い掛けにジャノは一時沈黙した後、
『……多少無茶な修行になるかもしれんぞ』
「構わない」
『わかった。ならば、我も気合いを入れるとしよう――』




