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思わぬ名

 やがて待機をしている俺とセリスの所にミーシャがやってくる。その顔は満足げ……どうやら、核心的な情報が得られたらしい。


「望みの物は手に入ったみたいだな」

「組織はさすがにこんな場所にある以上、見つかるはずがないと油断していましたね」


 ミーシャの手には紙束が握られていた。彼女はそれを一瞥し、


「力の研究データについてもそうですが、何より構成員と出資者のリストが存在していたのが良かった。この場所には魔法の道具をいくつも使った極めて特殊な装置が存在していました。おそらくこの場所から、出資者とやりとりをしていたのかもしれません」

「やりとりするなら、そういうリストは必須になるな……ラドル公爵に関する情報もあったか?」

「ええ、確認できました。さすがにこんな場所に存在するリストが偽物とは考えにくいですし、わたくし達は組織の内情をほぼ掌握できたと考えていいでしょう」


 戦果としては満点だな……では次に、その資料をどう利用するのか。


「ミーシャ、もう一つ確認だが他の拠点に関する情報などはあったのか?」

「はい、それも確認できました。ただ重要拠点はこの場所と、山中にあった砦……その二ヶ所のようです。帝国とリーガストの二ヶ国にまたがった組織ですので、国境線すら曖昧なこの場所は都合が良かったのでしょう」

「人目を気にせず山に入ることができるルートも多数ありそうだな」

「ああ、その辺りも十分に。あなたやわたくしが把握していない山道が多数延びているようで」

「……組織は長年に渡り活動してきた。それを踏まえると俺達が知らない道がどこかにあってもおかしくはないな」

「そうですわね、わたくし達だって山のことを把握しているわけではありませんからね」

「……山中における拠点は潰した。資料も押収した。ここから先はどうする?」

「拠点はいくつかありますが、その中でも核となる施設を二つ制圧したことで、敵方も対応に迫られるでしょう」


 そう言った後、ミーシャは一度建物へ視線を向けた。


「残念だったのは、幹部級の人間をこの場で拘束することができなかった点でしょうか」

「……組織の長については誰なのか判明したか?」


 俺が問うとミーシャはセリスに目を向けた。


「名前については確認できましたが……セリス、あなたにとって覚悟が必要ですわね」

「私が? ということは――」

「ああ、とは言っても皇族の中に組織と関係している人間はラドル公爵だけの様子。けれど」


 そう言いつつミーシャは資料を差し出した。


「この中に記載されている以外の人間だっているかもしれませんので、公爵以外に皇族の関係者はいない、と断定はできませんが……」


 ミーシャが話している間にセリスは資料を受け取り、中を確認。すると、


「……これは……」


 セリスの顔が険しくなった。俺はそこで彼女へ視線を送り、


「セリスと関わりのある人間か?」

「……うん、そうだね」


 頷くと彼女は、俺へ目をやりながら言った。


「エイテル=グローズン……私の師匠の名前」


 ――これはまた、ずいぶんな大物が出てきた。


 セリスの師匠、つまり彼女の才覚を見定めた人物。確か天才的な女性魔術師であり、帝国内に置いて三本の指に入る実力者でもある。


「ここに師匠の名があるということは……」

「それは組織幹部の名前が記載された資料です。よって、エイテル様が所属していることは確定でしょう」

「そっか……」


 彼女はそう言いながら資料に目を通し、やがてミーシャに返した。


「内容はとりあえず記憶した……けど、私は使えないかな」

「政治的な立場としてはそこまで強くありませんものね」

「下手に政治的発言をすると、面倒事を招くことになるからね……ただ、内容を見る限りこのリストが流出したら組織に致命的なダメージを与えることができる……かもしれないけど、同時に私達にもリスクがある」

「政治的及び、物理的な反撃が来るというわけですね」


 ミーシャの指摘にセリスは頷く。


「目を通した限り、帝国内で活動する貴族の名前も含まれている。相当組織は帝国に入り込んでいるけれど、だからこそ様々な反撃が予想される」

「大貴族や重臣が多くいるため、逆に扱いづらい物になっていますわね……とはいえ、これを利用しない手はない。表向きはリーガスト王国内に存在していた施設を叩き潰したということにして、こちら側から動きますわ」

「……大丈夫?」

「内容的に事を大きくすれば帝国内から色々と干渉してくる可能性は高いでしょう。とはいえこれはリーガスト王国も関係している事柄。放置はできませんし、これを利用しまずはリーガスト側から組織の影響力を排除します」

「その次に帝国、か」


 俺の言葉にミーシャは頷く。そこで俺は、


「転移魔法を使えば俺の所には容易に来ることができるだろ。何かあれば遠慮なく逃げてこい。かくまうくらいのことはできる」

「ありがとうございます。しかし、そこまで手を煩わせるつもりはありません」


 ミーシャは自信の笑み……今度の敵は政治的影響力の強い相手。正直どうなるか予想もつかないし、彼女が見せる余裕の表情がどこまでもつのか。

 とはいえ、俺達は情報を手に入れ、拠点を潰した以上敵も動き出す……賽は投げられた。ミーシャの頑張りに、期待させてもらうとしよう――


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