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信頼

 魔法による粉塵で視界が効かない中を突破し、俺は部屋へと入り込む。正面に見えたのは全員が男で人数は五人。

 そして俺の目は誤魔化せない……五人全てから、魔物の気配があった。


『全て魔物化した者達だ』


 ジャノも俺へと言った――同時、さらに加速し間合いを詰める。

 相手はこちらの動きに対し慌てた様子……いくら魔物化によって体を強化しているとはいえ、戦闘経験はほとんどなさそうな人物達。おそらくこの施設で力の研究をしていた人間だろう。

 よって、こちらの動きに対応できていない――俺も力を手にして初めて戦闘をするようになっているわけだが、それでもここまで得た経験と、勇者の剣術を扱えることによって、瞬時にどうすればいいのかを感覚で理解することができる。


 一方で相手は戦闘経験などない、ただ力だけを持っている者達……きっと、普通の騎士相手ならば力により圧倒できたはずだ。俺が勇者と戦った際、最初は力のみで拮抗していたように、技術がなくとも力の差があれば十分対抗できたはずだ。

 だが、現状は違う。この拠点へ攻め込んだ者達は、この場所で研究していたものと同質の力を持っている……俺は驚愕し硬直する男達へ接近した。


 そして相手が何か手を打つ前に、剣を一閃した。どれだけの威力を出せば倒すことができるのか、完璧に読んだ上での攻撃だった。

 相手は……苦悶の表情を浮かべ、それでいて声を発することすらできず体を傾ける。俺の一撃によってこの場にいた者達は全員床に伏した。そして、彼らの体が塵となって消え失せる。


 短い戦闘は終了……とはいえ、魔法の威力は相当なものだったし、セリスの結界でなければ防ぐことはできなかった。彼女が被害を防いだからこそ、圧勝という戦果を得たことに繋がるだろう。

 俺は部屋の中を一度見回し、他に敵がいないかを確認する。気配はなく、何か仕込まれているという雰囲気もない。それを確かめた後、一度部屋を出た。


「敵は全て倒した。抵抗する魔物もいない」


 おお、と周囲にいる騎士が声を上げた。魔法による猛攻をセリスが防ぎきったわけだが、あの凶悪な攻撃を仕掛ける人間をあっさりと倒してみせた……という事実は、改めて俺の能力を浮き彫りにしたらしかった。






 その後、俺達は一つ一つ廊下に存在する扉の奥を確認し始めた。だが結果から言えば、俺が入り込み倒した場所以外、人員はいなかった。

 魔物は残っていたが全て騎士達で対応できるレベルであり、最初の戦闘以降は俺とセリスの出番はなく、地底に存在する拠点を制圧することができた。


「さて……大仕事は終わったかな」


 俺とセリスは一度拠点の外に出て、地底内を確認する。ジャノの協力もあり周辺に魔物すらいないことを確かめると、一つ呟いた。


「セリス、どう思う?」

「……さすがに、ここからさらに拠点があるとは考えにくいかな。いくつも拠点がある、としてもこんな場所に施設を複数建てる必要性はどこにもないし」

「だよな……さて、戦いは終了してミーシャが騎士に指示を飛ばし資料を漁っている。間違いなく山中にあった拠点よりも核心的な情報がここには眠っているはずだ……外部協力者の情報に関しても残っていれば最高なんだが……」

「もしそうだったら、国内の勢力図が一変しそう」


 セリスが言う。確かに、無茶苦茶なことが起こるだろう。

 確定的な証拠をこちらが握ったとしても、ラドル公爵を始め外部協力者達は可能な限り抵抗するだろう。それはまさしく政治闘争。俺は辺境の領主であるため縁の遠い話ではあるのだが――


「セリス、一ついいか?」


 俺は彼女へ向け一つ問い掛ける。


「政治的な情報についてあまり関心なさそうだけど……そういう情報はミーシャの方に渡してしまって問題ないのか?」

「私は魔物討伐などをするにあたって、政治的な発言はしないように注意している。下手にそこに踏み込めば、高めた名声を利用して政治を掌握しよう、果ては私自身が帝位を得られるよう工作するのでは……なんて、あることないことを言われ、政治闘争に巻き込まれる」

「さすがに、それは勘弁願いたいと」

「うん、そうだね」


 セリスは俺を見た。そこで、一度目を細める。


「……エルク」

「どうした?」


 問い掛けた時、セリスは何か気になったような顔つきとなった。俺を見て引っ掛かるような態度に、何か懸念があるのかと不安になる。


「セリス、何か気になることが?」

「……ごめん、確信を得たわけじゃない。何かしら結論が出たら話すよ。あ、今回の件とは何も関係がないから大丈夫」


 セリスは言うと、視線を拠点へ向けた。


「そう掛からず報告が来るよ……政治的な情報はミーシャの方が上手く使えるし、あっちに任せるよ」

「後が怖いけどな……得た情報を利用して帝国に牙を向けるなんて可能性は――」

「それはないよ、大丈夫」


 セリスの返答はミーシャのことを信頼しきっているものだった。


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