洞窟の光
ミーシャの強化を受けた騎士やセリス達は自分の体を確かめた後、いよいよ転移魔法陣による移動を行うことに。先んじて騎士が魔法陣へ踏み込み移動すると、他の者達が相次いで進んでいく。
俺やセリスは最後に行くことになっているが……ミーシャへ顔を向けると彼女は腕を組み騎士達の動向を見守っていた。
「……ミーシャ」
そんな彼女へ俺は呼び掛ける。
「転移した後、そのまま地底へ踏み込む……で、いいんだよな?」
「はい、ただそこから先はどのような事態になってもおかしくはありませんし、今が最大の好機と言えど、無理は禁物だと考えます」
「……いざという時は俺がセリスとミーシャを抱えて逃げるつもりだけど、そうならないことを祈るよ」
「そこまで考えなくても良いかと思います」
会話をする内に騎士達が全員転移を行った。残っているのは俺とセリス、ミーシャだけ。
「……行こうか」
「うん」
俺はセリスに呼び掛けると、彼女の返事を聞くと同時に魔法陣へと歩き出した。
そして発光する場所に足を踏み入れる――直後、目の前が一瞬光に包まれ、気付いた時には移動していた。
真正面に、見上げるくらいの岩壁とその中央に大穴が存在しているのが見えた。場所としては俺達がいた砦の周辺――視界に映る範囲に存在する山々のどこか。そして大穴は、竜が出入りできるくらいの大きさを持っており、間違いなくこの場所から出現したのだろう、と俺は半ば確信した。
そこで後方から気配。セリスやミーシャが転移してきたと考えつつ振り向くと、彼女達は大穴を見据え目を細めた。
「あれが入口か……」
「セリス、何か気配とか感じ取るか?」
「瘴気の類いはあるよ。でも、こういう場所って瘴気は当たり前にあるものだから、自然発生しているのか人の手によるものなのかはわからないかな」
俺は大穴を見据える。ぽっかりと広がる虚ろな空間の先に何があるのかわからない。もしかしたら数秒後には竜が出現するかも……などと想像してしまいそうな雰囲気だ。
ただ、そんな様子でも騎士達は冷静に大穴周辺を調べ、なおかつ索敵魔法を行使する。
「洞窟内の構造はわかるのか?」
俺が問い掛けるとミーシャは騎士達へ目を向け、
「現在進行形で調べていますわ。地形構造を調べるだけなので、時間は掛かりません」
話をする間に騎士がミーシャへ報告に来る。
「洞窟内には地底へと繋がる道が存在しています。どうやら人の手によって作られた物のようです」
「ここが組織の手の者によって利用されているのは間違いなさそうですわね」
ミーシャは結論づけると、騎士へ別の質問を行う。
「魔物については?」
「観測した限り、存在はしていますが先ほど出現したような大型の魔物は観測できません」
「……ならば、進みましょう。エルク、セリス、二人もよろしいですか?」
問い掛けに俺達は同時に頷き、いよいよ洞窟内へ踏み込むことに。
騎士を先頭として、俺やセリスは隊列の中盤に位置して洞窟の中へ。騎士の誰かがアカリの魔法を使用し、周囲を照らした状態で先へと進んでいく。中は一本道であり、報告通り歩きやすく明らかに自然に形成された道ではない。
この先に敵の拠点が存在するとしたら……やがて先頭の騎士が立ち止まった。
「王女、この先は地底が見える空間になっています」
「歩くのが危険というわけですね。全員、強化により対処はできると思いますので、先へ進みましょう。敵の拠点と思しき場所との距離はどうですか?」
「まだ距離はありますが、地底まで到達すればどうにか」
「わかりました」
騎士がさらに奥へと進んでいく。まだ敵の姿はない……というより、むしろここまで来て敵の姿がないというのは、先ほどの竜で打ち止めということだろうか?
あの竜は間違いなく世界を滅ぼせるだけの力を持っていたはず。それだけの力を付与した以上、組織としても切り札だったし、俺やミーシャを倒せるだけの存在として自分達の居所が露見しても必ず倒す、という意味合いで送り込んだ敵なのか。
色々な推測しつつ俺はさらに進むと……地底を抜ける風の音が聞こえた。通路は右方向に伸びているのだが、どうやら真正面は崖となっており、そこから先は明かりで照らしきれない広大な空間が広がっているらしい。
少し慎重に進まないといけないかな……風の音を耳にしながら俺は騎士達と共に進んでいく。道は下り坂で、このままだといずれ地底へ到達するのだろう。
「……こんな空間を見つけ、拠点を作るというのは荒唐無稽だな」
俺は一つ呟く。そう思いながらも世界を滅ぼす力を応用すれば色々とできるということかもしれない……俺は自分が持つ力を振り返り、この力も似たようなことができるのか、となんとなく疑問に思う。
もしかすると拠点で得られた資料から、応用できる何かがあるかもしれない。ミーシャに後で資料を見せてもらえないか確認してみよう……そんなことを思う間に、俺は気配を感じ取る。
地底と思しき場所を見る。明かりの外は漆黒だが……それでも遠くに本来地底ではあり得ない、光を見ることができた。




