長い一日
ミーシャが引っ張ってきた追加の人員は合計して二十人ほど。総合計で五十人近くの態勢になったわけだが、果たしてこれで敵の拠点を見つけることができるのか。
「索敵をより広範囲かつ、地中にも広げ調査を行います」
ミーシャはそう言うと騎士達にテキパキと指示を送り、作業を進めていく。その間、俺やセリスは周辺の状況を探り魔物がいないかを確認する。
敵に動きはなく、山中には魔物もいない……というか、人里離れたこの場所に魔物が皆無というのも変な話だ。ここに拠点があるため、魔物を追い払うような仕掛けが施されていると考えても、距離を置けば魔物がいてもおかしくないのだが――
「ミーシャ」
俺は少し気になってミーシャへ声を掛ける。
「魔物の姿が皆無だが、何か知っているか?」
「……考えられるとすれば、組織の手の者が魔物を集め、実験体に使ったのでしょう」
「野に存在する魔物を利用し、凶悪な存在を?」
「消えた理由としてはそれが一番合理的でしょう」
確かにそうだな……魔物がいないことを良いことなのだが、さすがに現状では手放しに喜べないな。
魔物がいないにしても俺達は警戒しつつ……ミーシャ達が作業を進めていくのを眺める。やがて何やら話を始める騎士が多くなった。どうやら何か見つけた様子だ。
それが敵の拠点か、あるいは凶悪な魔物か……俺とセリスが事の推移を見守っていると、やがて報告を受けたミーシャが近づいてきた。
「……拠点らしき大きな魔力の存在を確認することはできました。ただ、その道筋については探し出す必要がありますね」
そう言いつつも、さらに騎士が彼女へ向け報告を行う。
「……ふむ、どうやら地底へ繋がる道を使役する使い魔が発見したそうですわ」
「手際が良いな……」
「精鋭を引っ張ってきましたからね」
ミーシャが自信ありげに述べる。
「とはいえ、地底へ踏み込むにしても、少々時間が欲しいですわね」
「どのくらい掛かる?」
「わたくしの強化を騎士全体かつ、セリスに付与できるように調整します。昼前までには作業が完了しますので、少々お待ちください」
彼女は一方的に告げると騎士達と共にまた作業を始めた……よくよく考えると、まだ昼にも到達していない。今日の朝、突然ミーシャが来訪してきて敵の拠点へ攻撃を仕掛け、セリスと遭遇し凶悪な魔物を倒した……それでまだ昼にも到達していないので、今日は本当に長い日だ。
しかもここから地中に存在する拠点へ攻撃を仕掛けるかもしれないとなったら――
「エルク」
ふいにセリスから声がした。
「ミーシャが連れてきた人達が、お弁当持ってきてくれたから食べよう」
「……ずいぶんと気が利くな」
ミーシャの配慮に感謝しつつ、俺はセリスから弁当を受け取る。そして騎士達が忙しなく動いている中で、俺達は適当な場所に座って食事をすることに。
木箱に入っていたのだが、中身は前世で言うサンドイッチのようなものであった。それをつかんで食べると新鮮な野菜の食感と香辛料が肉の感触と共に鼻の奥へと抜けた。
「……高い食材だな、これ」
「こういうところでミーシャは妥協一切しないからね」
笑いながらセリスもまたサンドイッチを頬張る。
「このまま決戦になったら、以降は止まらないだろうし……休めるのは今のうちかな」
「今日中に決着がつくと思うか?」
「どうだろうね……でも、敵に次の動きをさせないためには、多少無理しても今戦わなければいけないのも事実。まあ転移魔法もあるし、拠点までは早いかも」
「……転移魔法自体も、道具の力ってことでいいんだよな?」
「そうだろうね」
便利だな、この力……ただ、一切詳細が不明である謎の力であるため、いくら単なる力でしかないと言っても、注意は必要だろう。
『まあ道具が暴走する危険性は低いのではないか?』
胸中で色々考えていた時、ジャノの声が聞こえてきた。
『ミーシャ王女は、道具の力を推し量って利用しているようだ。セリスに強化の力を付与した際も、探り探りといった様子だったからな』
それなら、大丈夫そうか……ミーシャが突然討伐へ向かうと言い出した時はどうなることかと思ったが、セリスも加わり敵対組織の壊滅まで進める可能性が出てきた。このまま勝利して、平穏を得たいところだけど。
その後は――いや、さすがにまだ考えるのは早いか。今はひとまず、目の前の敵を倒すことだけを考えなければ。
やがて俺とセリスは弁当を食べ終え、警戒を続けながら作業を見守ることに……ただ、そこまで時間は必要じゃなかった。
「準備ができましたわ」
ミーシャは転移魔法陣に加え、何やら複雑な術式を地面に刻んでいた。
「転移場所は地底の入口と思しき場所となります。周辺に魔物がいないことは確認していますが、転移後は念のため注意してください」
そう言った後、ミーシャはもう一つの仕込みについて言及した。
「これは予め強化魔法を使用するためのものです。今からエルクを除いた面々に魔力を付与します。道具の力を一気に送りますので、少し体に力を入れておいてください」
告げた後、ミーシャは間髪入れずに魔力を発し、セリス達へと魔力を注いだ。




