三人の相談
俺達が砦近くまで来ると、城門前にミーシャが待っていた。
「さて、今後のことを話し合いましょうか」
彼女も同じ事を持っていたらしい……敵の拠点が地底にあるとしても、まずは調査してから動くというのが望ましいのだが――
「本来ならば、このまま地底へ踏み込むのが良いのですが」
「いくらなんでも無茶な気がするけど……」
俺の言葉にミーシャも頷いた。
「ええ、さすがにそれだけの準備をしているわけではありませんからね。しかし、敵に動向を探られているのなら、引き続き動き敵に隙を見せないのも選択肢です」
「そうかもしれないが……地底に拠点があるとしても探索しないといけない……使い魔なんかを使って調べることができたら、だいぶ楽だろうけど」
「さすがにそういったものに対して策は講じていると思うよ」
そう声を発したのはセリス。
「いくらなんでも無策というわけではないと思う」
「ま、それはそうだな……ただまあ、やれるだけやってみてもいいし、そうした策が施されている周辺に敵の拠点があるかもしれない、という風に考えれば拠点の位置を絞り込めるかも」
「確かにそうだね……うん、まずは試してみるよ」
「俺の方はどうしようか……」
「エルクはひとまず休憩かな」
「索敵については役立たずだからな」
――と、ここでセリスは俺へ視線を投げた。たぶんジャノの意見について聞きたいのだろう。だが、ここへ戻ってくるまでにミーシャにジャノについては伝えていないことは簡潔に言ってある。よって、彼女としても直接的言及は避けたわけだ。
「……俺自身、地中とか地底とかに力を使って探りを入れてみたけど、さすがにわからなかった。索敵とか調査については、俺は何の力にもなれないな」
「その代わり戦いで貢献してもらえれば」
これはミーシャの意見。俺のことをこき使おうとしているのがわかる……けど、きっとこの戦いを勝利に導くには俺の力も必要だろう。だから、別に不快ではない。
「わかった……ミーシャはどうするんだ?」
「ひとまず資料を回収を優先しています。少し待っていてください。残る問題としては、敵組織の長や、外部協力者をどうするかですが」
「そっちの情報はほとんどなかったんだよな。むしろ資金源を断つという意味合いからすると、そっちの方が重要性高そうだけど」
俺はセリスを見る。第一候補はいる……ラドル公爵だ。
ただ、これについてもミーシャには言っていないと先ほど伝えたのだが……と、ここでセリスは、
「ミーシャ、今から言うことを他言無用にできる?」
「ええ、わかりました」
軽いなあ……でも、口が固いことは知っているので信用できるけど。
そしてセリスはどうやら……沈黙していると彼女は語り出す。
「あなたが力を手にした由来はわかった。エルクについても、外部協力者の手によって力を得ている」
「外部協力者……で、確定ですの? 偶然そうした道具を持ち込んだ、とかではなく?」
「間違いないと思う。その人物は――」
公爵のことを伝えると、ミーシャも少し驚き目を見開いた。
「ずいぶんと大物の名が出てきましたわね……パトロン、という意味合いでしたら、最上級の御仁で間違いないでしょう」
「危険だけど、公爵から探りを入れることもできなくはないよ」
「うーん、さすがに相手が相手である以上、深入りすると面倒事になりそうですわね」
ミーシャですら二の足を踏むか……まあ、相手が皇帝陛下の弟なのだから、当然と言えば当然か。
彼女はリーガスト王国の次期女王であるため、政争闘争とか、そういうものも間近で見てきた。だからこそ皇帝陛下の弟、などという立場の人間がやらかしているのは極めて重大であり、また同時に関わること自体にリスクがあると考えている。
「正直、わたくしとしては最終手段にしたいところですわね」
「ただ、リーガスト側で組織の人間を捕まえだしたら公爵もおとなしくなるだろうし、証拠も隠滅すると思うんだよね……まあでも、現時点で私達の動向がバレているとなったら、あんまり意味はないのかもしれないけど」
「……もう、こちらの動向がバレていることを承知で動くとしたら、早急に何もかもやらないとまずそうだな」
とはいっても、組織側としては世間にバレないよう証拠を隠滅し、雲隠れするって感じだろうから攻撃はしてこないかもしれないけど……捕まえるのは大変になる。
どちらを選んでも、苦しい……俺達が確実に組織を叩いているのに、もどかしい感じだ。
「……ふむ」
ここでミーシャは口元に手を当て、
「ひとまず、敵拠点の位置を捕捉できるかどうか試してみましょうか。こちらも騎士達を動員……さらに人を引っ張ってきますので、一時間程度お時間を頂けますか?」
「人海戦術で探り当てると?」
俺の質問にミーシャは頷いた。
「ええ、何はともあれ敵の本拠地がわかれば、こちらとしては有利に動ける」
「……セリス、どう思う?」
「試してみる価値はあると思うよ。敵だって現状ではかなり弱体化している……私達も苦しいけど、それ以上に組織を壊滅できる好機でもある」
……彼女は腹をくくったらしい。俺もまた頷いた時、ミーシャは即座に動き出した。




