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世界を救う力

 セリスの強化魔法によって受け取った力……ミーシャの力をセリスが加工し、俺の剣へ付与するというなかなかに面倒な手順によるものだが、その見返りはあった。

 俺は剣を強く握りしめる。付与された力は大きく、しっかりと剣を握っていなければ剣をすっぽ抜けてしまいそうだった。


『いけそうか?』


 ジャノが問う。それに俺は小さく頷き、


「よし――いくぞ!」


 次の瞬間、俺は駆けた。なおも力が収束する剣をしっかりと握りしめ、セリスの魔法によって縫い止められた竜へと近づいていく。


『一つ朗報がある』


 ここでジャノが声を上げた。


『皇女の魔法によって竜の表層に存在していた魔力が大きく減っている。今ならば、エルクの剣で体内に存在する魔力を消し飛ばすことができるかもしれん』

「倒せる確率が上がったわけだな……もちろん失敗する可能性もあるが、それでもさっきよりも遙かに勝てる公算は高くなった」


 そう呟いた俺は、口の端に笑みを浮かべた。


「十分だ――後は、全力を尽くす」


 竜へと突き進んでいく。それと共に、竜もこちらの動きに気付いたか咆哮を上げ威嚇しようとした。

 だがそれを制したのはセリス。絶え間のなく魔法を注ぎ攻撃すらさせないよう立ち回る。魔法が常に竜に直撃しているため、接近するのも危険ではあるのだが……俺は構わず近づいた。


 それはセリスが何かしらのフォローをするだろうという推測が一つ。そしてもう一つは、これで決めるという強い意志によるもの。衝動とも言うべき感覚が、俺の背中を押していた。

 ここで仕留めなければ、竜は暴走し後方にいる騎士達を飲み込むだろう……俺は剣に魔力を叩き込んだ。それによってさらに力は増し、セリスの強化魔法と合わさって、これまでにない大きな力へと昇華する。


 それは世界を滅ぼす力に比肩するものであるのは間違いなかった。しかし、俺達は滅びなど望んではいない。ジャノが言っていた、力は所詮力でしかないと。

 ならば今、俺が収束している力は……あらゆる災厄をはね除ける、世界を救う力だ。


「おおおおっ!」


 渾身の一振りが、竜へ繰り出される。発光した斬撃は完全に動きが止まった敵に対し直撃し――黒ではなく、白い斬撃が竜の体を駆け抜けた。

 今までにない色なのは、きっとセリスの強化魔法による影響だろう――斬撃が通過した結果、竜の巨躯はゆっくりと横に倒れていく。そしてズウン、と一つ音を立てて倒れ伏すと、その体躯が崩れ落ち始めた。


 勝った……途端、後方から騎士達の歓声が聞こえた。強大な存在――世界を滅ぼし得るだけの力を持つ存在を、俺達で打倒することができた。

 誰にも見咎められないような戦い……しかし、俺達は確実に世界を救った。息をつき、剣を鞘に収めた時、後方からセリスが近寄ってきた。


「お疲れ様、エルク」

「セリスの方も……むしろ、俺は最後の最後に戦っただけでほとんどセリスが受け持っていた一番労われるべきなのは、セリスだな」


 俺の言葉にセリスはちょっと驚いた顔をした後、ほのかに笑った。


「そうかな? なら、二人いなければどうしようもなかった、ということで」

「ああ……さて、戦いには勝利したわけだけど……これからどうする?」


 俺は滅び去っていく竜へ視線を向け、


「俺達が砦を攻略している間には、気配すら感じられなかった。索敵を行っていた騎士によると、地表は調べていたが地中は調査していない……当然、竜は地中から姿を現したということになるだろう」

「地中……地底に危険な魔物がいて、ついでに言うなら砦以外の拠点だって存在しているかもしれない、ということだね」


 俺は頷く……山中にある砦すらどうやって建てたのかと思うほどなのに、地底に存在しているとなったらさらに荒唐無稽だ。しかし、魔物の存在を考えれば――


「拠点がどうやって作られたのかは、正直考察しても意味はないと思うよ」


 と、俺の心を読むかのようにセリスは発言した。


「この力……世界を滅ぼし得る、エルクやミーシャが持っている力……この力で、どうにでもなると思うし」

「……例えば、城を創造することだってできるか?」

「あるいは、単純に無茶苦茶な力で資材を持ち込んだとか」


 ああ。その可能性の方が高そう……。


「確実に言えることが一つ。あれほど凶悪な魔物がいた以上、確実に山中に敵の拠点がある……帝国とリーガスト王国にまたがって活動しているなら、ルディン領に面するこの山々は、人も少ないし潜伏するにはもってこいだし、二国間を行き来もできる」

「俺としては他の場所に拠点があるよりもだいぶ動きやすくなったけど……これ、相当話が大きくなっているよな? 帝国に……皇帝陛下にきちんと報告すべきじゃないか?」

「そうだね……でも、今ここでこの地を離れることもリスクが伴う」


 そうセリスは俺へ語る。


「竜が出現したということは、エルクやミーシャが山の上にある拠点を破壊した、ということを敵は気付いていると思う。その中で迂闊に帝都に報告しに行ったりしたら……」

「そこを付け狙われて反撃される、と」

「正直、山の上にある砦に存在する研究資料なんかを押収されるだけでも、敵側としては反撃する理由になると思うけど……」


 セリスは周囲を見回す。竜を倒して以降、周囲は風の音しか聞こえてこないし魔力も感じられない。


「今は止まっている……この間に作戦会議をするべきかな?」

「そうだな、ミーシャに話を持ちかけられた時と状況が変わっている。今後の方針を決めるべきだ」


 俺はそこでミーシャを見た。彼女は騎士に指示し砦の中にある資料を回収している。


「まずはミーシャを話し合いか」

「うん」


 返事を聞くと共に、俺とセリスは歩き始めたのだった。



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