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皇女の魔法

 セリスとミーシャは魔物が来るまで道具による強化の検証を行っている。とはいえほとんど時間はない。こうしている間にも竜の魔物が近づいてくる。

 俺はもし間に合わなければ時間稼ぎをすることを決意し、魔物が来るであろう方向を見据え待機する。


 直に魔物は到着する……近づくにつれ、騎士達も気配を感じ取り警戒を強めていく。

 騎士達に付与された強化の魔力はまだ維持できている。このまま竜との戦闘に入ってもおそらく対応はできると思うが……犠牲者が出るかもしれない。


 竜が突撃するだけで、危機的状況に陥る……移動する様を見れば、俺達を確認したら全力で攻撃を仕掛けてくるだろう。俺の斬撃止められるか否か。


「……ジャノ」


 俺は周囲にいる騎士達を気にしながらジャノへ問い掛ける。


「例えば竜が突撃した場合……俺だけで止められると思うか?」

『難しいな。おそらく表層に存在する魔力を消し飛ばすことができるだろう。問題は体内に存在する魔力。それを消し飛ばさなければ、竜は存命するだろう』

「突撃を中断するかは、賭けってことか……」

『勝負はたった一度しかできないため、どうなるか予測できないような戦い方は、エルク自身にもリスクが伴うな』


 ジャノの意見は間違いない。もし俺が押し留めることができなければ、後方にいる騎士やミーシャなどにも被害が及ぶかもしれない。

 そして、間近まで接近してきた竜から騎士やミーシャが逃れる術はあるのか……今のうちに逃げるという手もあるにはあるのだが、そもそも逃げ切れるのか……転移魔法などで逃げたとしても、ならば竜は他の場所へ向かい、村などに到達してしまえば……悲惨な状況になるだろう。


 それを回避するのなら、今ここで倒すしかないが――


「エルク」


 セリスの声だ。振り向くと、ミーシャから強化を受けて魔力をみなぎらせた彼女が立っていた。


「準備はできた」

「強化はできたみたいだな……問題はその力を魔法に付与できるのかどうか」

「簡単な魔法で試してみたけど、ちゃんとできた。本当ならもっと時間を掛けて検証したいところだけど……」

「さすがにそれは難しいか」


 俺の言葉にセリスは小さく首肯する。


「ほぼぶっつけ本番だからね……でも、魔物は迫っている。やるしかない」


 セリスの表情には不安もある。だが、この場にいる者達を生還させるには、自分が動かなければならないという自覚もある。

 凶悪な魔物とは二度相対した彼女だが、魔物撃破には貢献できていなかった。それがジャノと同質の力を持っていなかったことが原因だとするならば、今の彼女ならば――


 ここで魔物の咆哮。もう時間はほとんど残されていないとして、後方にいるミーシャが騎士達へ指示を飛ばす。


「全員、エルク達の援護を! 魔物の状況を常に把握し、どんな形でも応対できるように展開しなさい!」


 指示を受け騎士達は動く。そうして準備が整う中で、いよいよ先ほど確認した竜が姿を現す。

 そして――俺達を見た瞬間、再び咆哮を上げた。来る――そう直感した矢先、竜は突撃を開始した。


「セリス!」


 俺が声を発すると同時、彼女は地面に杖をかざした。刹那、魔力が迸り俺達の真正面に、結界が生まれ魔物の進路を阻もうとする。

 透明な壁に対し、魔物はなおも突撃する……以前セリスが遭遇した魔物は、結界によって足を止められた。今回は敵が大きいけれど、セリスも以前とは違う強化されている。ならば結果は――


 直後、轟音が響いた。竜と結界が激突し――勝負は、セリスの勝ちだった。竜が結界によって押し留められ、激突したことで動きが大きく鈍った。

 そこで、セリスは再び杖をかざす。次に生み出したのは雷光。それが幾筋……いや、数十本もの光となって、一斉に竜へと差し向けられた。


 直後に生じたのは雷光による破裂音や閃光。ミーシャの強化によって大きく威力が上がったセリスの魔法は、竜の動きを完全に縫い止め、さらに呻き声すら上げさせる。間違いなく通用している……確信と共に、セリスはさらに追撃として今度は炎の魔法を使用する。

 それは槍のような形状に変じると、一瞬で数十本もの数を生み出し竜へと注がれた。巨躯に着弾すると爆発を伴い竜は再度声を上げる。それは雄叫びではなく、痛みを誤魔化すためのもの……そこで再び雷光が生まれ、動きを止め的となった竜へさらに当たる。


 そこで竜は一歩後退した。無茶苦茶な魔法による攻勢でとうとう突撃を停止するばかりでなく、逃げようとした。俺はそこで剣を構え攻撃しようか迷う。突撃がないのであれば、俺は騎士やセリスのカバーをする必要がなくなり、攻撃できるが――


「エルク」


 そこで、魔法を放ち続けるセリスが声を上げた。


「私に付与されている強化を、エルクの剣に付与する」

「俺の剣に?」

「ミーシャの強化を、私の魔法を通してエルクに付与する。元々持っている力と合わせれば、あの魔物を倒せるだけの力になると……私は思う」


 彼女の言葉に俺は、小さく頷いた。きっと俺がミーシャから直接魔力を付与されても、同質の力を持っているため効果は薄いだろう。しかし、セリスの魔法によって質を変えたのであれば――


「このまま魔法を撃ち続け動きを止める。エルクはその間に魔物を、仕留めて」

「わかった」


 即答した瞬間、セリスは俺の剣へ向け杖を振り――凄まじい力が剣に乗っかるのを感じ取った。


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