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覚悟

 魔物の咆哮と同時、俺は声を発している魔物と、索敵魔法で観測をしていたと思しき人間の気配を捉えた……人間と魔物の位置はまだ距離はあるが、魔物の移動速度を踏まえるとあっという間に遭遇することになる。

 魔物は一直線にその人間へと向かっている。それは人間の気配を捉えられていない段階では、魔物を呼び寄せているという可能性もあったが、今は違うと断言できた。なぜならその人間は――


「ミーシャ」

「こちらも人間について詳細を捕捉しました……どうしますか?」

「俺が行く。ミーシャは引き続き周辺の警戒を頼む」

「わかりました」


 同時、俺は地を蹴った。これまで使用してきた『魔導脚』を用いて、魔物が人間と接触するより前に、俺が対応する。

 そこで、ジャノのも気付いたように声を上げた。


『……皇女か』


 そう、索敵で捉えた人物はセリス――ただ、今回は勇者などは伴わず完全な単独行動だ。


『なぜ周辺に騎士がいない?』

「山へ入って調査するだけなら、単独の方が効率が良いって判断だろう。もし魔物がいても、一人なら逃げることも容易い……が」


 セリスは魔物の気配を捉え、さらに俺が向かっていることも気付いたはず……そこで彼女は俺へ向かってきた。あちらも気付いたらしい。

 そこで魔物の気配から、その能力を推し量る……どこにいたのか、魔力量は俺が初めて戦った魔物と似通っている。


 つまり、ジャノから言わせれば魔物などを喰らって強くなった個体……やがて気配が近づき、俺はセリスの姿を視界に捉えた。


「セリス!」


 声を発した直後、俺は再び魔物の雄叫びを耳にする。その距離はかなり近く、このままだと交戦すると判断した俺は、


「ひとまず移動を!」

「わかった!」


 セリスは同意し、俺に追随する。そこで、俺は砦に向かうまでに一度後ろを振り返った。

 そこで再び魔物の咆哮。同時、その姿を確認する……表現するとしたら、竜。灰色の巨大な四本足で闊歩する、恐竜のような見た目の竜であった。


『間近で気配を探って気付いたが』


 と、移動中にジャノが声を発した。


『あれには表層で感じられる魔力以外に、さらに隠れて感じられない魔力が存在している。あれを打倒するにはかなり苦労するぞ』

「一撃では倒せない、ということか?」


 移動中に小声で問い掛けるとジャノは『そうだ』と応じた。


『エルクは確かに世界を滅ぼしうる力を得ている……が、あの竜もまた、それに近しい能力を持っていると考えることができるだろう』

「だとしたら放置はできない。かといって勝てるのか?」

『エルク単独であれば相当なリスクのある戦いだと考えることはできるが、ミーシャ王女の助力もある。十分討伐は可能だろう』


 ならセリスと共に討伐に向かう……ということでいいのだろう。俺はもう一度振り返り竜の姿を確認。赤い瞳は俺とセリスを射抜いており、確実にターゲットにしている。

 俺が今まで戦った魔物と比べても大きく、おそらく斬撃一つで押し留められるような相手ではないだろう……入念な準備が必要であることは間違いないが、それだけの余裕があるだろうか?


 不安もあるが、やるしかない。唯一幸いなのは、ここは山の中であるため人的な被害がほとんどないことくらいか。

 ここで再び魔物の雄叫び。逃げる俺達へ向けたものであり、足音による地響きも感じられる。


「……あれは、かなりヤバいな」


 呟きと共にさらに速度を上げる。そうして俺とセリスはどうにか竜から距離を置くことができた。






 ミーシャと合流し、まずはセリスと彼女が話し合いを行う。ミーシャ自身が動いていることに加えて俺まで作戦に参加しているという事実にセリス自身は思うところがある様子だったが……差し迫っている状況ではあるため、言及はしなかった。

 一通り情報共有をした後、索敵を行う騎士から報告が入る。


「現在、魔物はこの砦に近づいています」

「……そもそも、あの魔物はどこから出てきた?」


 ここで俺は一つ疑問を告げる。


「索敵を行ってきた時点であの魔物の姿は影も形もなかったはずだが」

「魔法はあくまで山岳地帯に沿って行われたものです」


 俺の疑問に対しては騎士が答えた。


「例えばですが、地中にいた場合は見つけられた可能性は低いかと思います」

「地中……もしかして拠点は地中にあったりするのか?」

「その検証をするには、まず魔物を倒さなければなりません」


 ミーシャが声を上げる。俺は同意するように頷き、


「大きさなどは報告したとおりだ。どう戦う?」

「それだけの巨大さであると、わたくしが道具で補助したとしても騎士達には荷が重いでしょう」


 ミーシャは断言。俺は再び彼女の言葉に頷き、


「なら俺が?」

「いえ、他の手を使いましょう……セリス、例えばあなたはわたくしが持つ道具の力、それを使用することを許しますか?」


 ――そうか、ミーシャの道具によってセリスを強化する。その魔法ならば倒せるということか。


 魔物を倒すために魔物と同質の力が必要だと仮定するのであれば、ミーシャの道具によって強化されたセリスの魔法が何より最適解になる。


「道具の力……私の魔法と組み合わせることができるのか検証をしてみないと」

「その時間はあるのか?」


 俺が尋ねる。魔物はこちらへ向かってきている……砦に到達するまで、現状のペースだと三十分くらいだろう――


「やるしか、なさそうだね」


 俺の疑問に、セリスは覚悟を決めた表情を見せた。


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