表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/121

砦の中

 砦の中へ入った瞬間、濃密な魔力を感じ取った。しかもそれは幾度となく交戦した凶悪な魔物が放つもの……ここが敵組織の拠点である、というのは確定だと改めて思った。

 その時、真正面から魔物が出現。即座に騎士が交戦を開始し、魔法と剣を組み合わせて一気に仕留めきる。


『連携は完璧だな』


 騎士達の戦いぶりを見て、ジャノはそう発言した。


『魔物の能力を考えれば、王女が持つ道具の効力が非常に大きいのだろう』

「あの道具……騎士達に使用して何も問題はないって感じだけど……本当に大丈夫なんだろうか?」

『力そのものが悪さをしている様子はなかった。少なくとも暴走するようなことにはなるまい』


 ジャノが解説する間にもさらなる魔物が出現し、騎士達が迎撃する……魔物を一体倒すごとに周囲に満ちる魔力が減っていくような気がした。おそらく砦の中には魔物が放つ魔力というか瘴気が滞留しているのだろう……ここまでは順調。残る問題は魔物化した人間の存在か。

 やがて騎士達が魔物を撃破し、先へと進んでいく……正直、俺はいらないのではと思うような状況だ。


 このまま騎士達が対処してくれたのなら、俺は楽できるので良いのだが……そんなことを思った時、前方から魔物以上に濃い魔力を感じ取った。


「お出まし……かな?」

『ああ、おそらくな』


 ジャノが応じる。直後、視界に一人の人間が見えた。男性であり、


「貴様ら……!!」


 怒気を膨らませ、人間が俺や騎士を見据える――年齢は三十台くらいだろうか。貴族服姿ではあるのだが、まとう気配はまさしく魔物のそれ。一目見て、もう二度と普通の人には戻れないという強い確信が生まれるほど、放たれる魔力は人をやめていた。

 男は俺達に対抗すべく魔力を発し戦闘態勢に入った。するとそれに対抗するように騎士達も動く。


 状況的には多勢に無勢。普通であれば男が勝てる道理はない……だが、それでも果敢に挑もうとする男の姿を見て、俺は嫌な予感がした。

 何か、対処法があるのか――俺はその予感に従い、駆けた。そして一番後方から先頭に立ち、今まさに攻撃しようとする男へと肉薄する。


「っ……!?」


 男が呻くのを耳にする。何かしら騎士達への対抗手段は持っているにしろ、さすがに俺の行動は予想外だったらしい。

 つまり、先制攻撃をするなら今……俺は剣を薙いだ。これまで魔物を一撃で倒してきた剣だ。ならば、目の前にいる人物だってどれほど力を持っていようとも、十二分にダメージを与えることができるだろう。


 俺の剣が届きそうになる――が、その寸前に男は全力で回避した。その体を掠めたが、残念ながら直撃はしなかった。

 ならば追撃を、と思ったところで男もまた反撃に出た。魔力を収束させたかと思うと、その拳を放った。腕には相当な魔力。もしこれが騎士に直撃したなら、下手すると終わったかもしれない――


 男の攻撃を、俺は剣を盾にして防いだ。直後、両腕全体に途轍もない衝撃を感じ取った。男の魔力は純粋に膂力を強化するらしく、気を緩めればあっさりと吹き飛ばされる……そんな威力だったが、俺は男の攻撃を受け取った。

 対する男は俺が耐えたことについて驚愕したか、目を丸くした……男のプランとしては、まず接近してきた俺を吹き飛ばし、騎士達を相手にしてその数を減らすつもりだったのだろう。持ち前の膂力を使えば、取り押さえることも厳しいため、力を存分に振るったのであれば、大きな被害は免れない。


 だが、俺がいたことで最悪の未来は回避できた。ならば次は――反撃に出る。俺は魔力を高め剣を薙いだ。

 それに男は気づき全力で回避しそうになった――が、一歩俺の方が早かった。気付けば男の体に、俺の刃が入った。


「が、あ……!」


 男が叫ぶ。それと同時、男の体から魔力が噴出した。

 膨大な力によってその体を支えているみたいだが、俺の斬撃によってそれが難しくなっている状況。手応えはあったし、おそらくこれは……推測する間に男が倒れ伏した。


 次いで、その体が塵となっていく……改めて、魔物化して人を捨てた存在だったのだと理解する。


「……助かりました」


 ふいに背後から声。見れば、俺と共に入城した騎士の一人がこちらに視線を向けていた。


「もしこのまま交戦していたのなら、大きな被害が出てもおかしくありませんでした」

「それだけ危険な相手、ということだな……人間が出てきた場合は、俺が戦った方がよさそうだな」


 騎士は一瞬、目を細めた。王女に協力を請われたとはいえ、領主を矢面に立たせるのは、という風に考えたみたいだが、先ほどの敵に対し、まともにやりあえばどうなるかわからないのも事実。

 自分達で対応する、ということを騎士は脳内で検討したみたいだが……やがて、俺へ告げた。


「私達が可能な限り援護します。ご協力願えますか」

「もちろんだ」


 俺は頷き、騎士達と共に動き始める。次いで出現した魔物は騎士が対応し、さらに砦の奥へと向かう。


『次に相対した時、一撃で倒せるように備えておくべきだな』


 ジャノが俺へ声を掛けてくる。こちらは「そうだな」と短く答えつつ、騎士達を見る。

 先ほどの敵のことを頭に思い浮かべているのか、誰もが表情を引き締め最大限の警戒をしている。王女から付与された魔力がまだ十分に残っている。このまま戦い進めても問題はないし、後詰めもいる。


 その時、後方から音が。後続が砦の中へ入ってきた。


 砦の制圧は、思った以上に早いかもしれない……そんな予感を抱きながら、俺は前方に新たな敵を捉え、戦闘態勢に入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ