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同質の力

 ミーシャが取り出したのは前世で例えるならピンポン球くらいの大きさを持つ赤い球体。それに視線を向けていると、彼女から話し始めた。


「この魔法の道具こそ、討伐を行える根拠となる物です」

『……我と同質の力を感じるな』


 頭の中でジャノの声が響いた。それはつまり――


「その道具、どこで手に入れた?」


 俺の問い掛けにミーシャは手のひらの上で転がしながら、


「わたくし自身が組織について調査する前に、組織に関わっている存在と接触する機会があり、その時に偶然。不可思議な力で、これは何かと調べていた時、組織の存在に気付きました」

「……そこから調べる行動力はさすがだけど、不可思議な力だとしてそれを使おうという発想が無茶苦茶だな」

「色々と調べていた時、この道具に意思などが宿っていないことは確認していましたし、問題はないと判断しました」

「それで、道具を用いて自分自身を強化するのか」


 俺が言うと……ミーシャは首を左右に振った。


「いえ、これは別の使い方をしますわ」

「別の……?」


 俺が問い返すと、彼女は行動で説明をしてみせた。まず球体を手で強く握りしめ、魔力を込めた。

 直後、道具から魔力が発露する。同時、その魔力が周囲にいた騎士達へ、吸い込まれた。


「これは……他者を強化するのか?」

「ええ、そうです」


 俺の言葉に今度こそミーシャは頷いた。


「どうやらこの魔力には一定の指向性を与えることができる……道具内に存在する魔力を大気中に漂わせ、周囲にいる者達を強化することができる。ただし、あくまで魔力を付与するだけなので、その魔力を消費してしまったら効果は途切れますが」

「なるほど、三十人の騎士を一斉に強化して、砦を制圧するか……問題は魔物を倒せるかだが」

「そこについても、ご心配には及びません」


 ミーシャがそう答えた時、騎士達が動き出した。一歩遅れてミーシャが続き、俺もまた彼らの後に続く。

 岩陰の先にあったのは、無骨ながら石の城壁を備える砦。そして城門の前には四本足の魔物。その魔力量は俺が相対したものと遜色がない――が、比較すると多少ながら弱い個体のようだ。


『山岳地帯を歩き回っていた個体は、魔力を高めるためにウロウロしていたのかもしれんな』


 ふいにジャノが俺へ考察を述べた。


『自然発生する魔物などを喰らい、能力を強化していたのかもしれん』

「つまり今、目の前にいるのは捕食行為などを行っていない魔物……とはいえ、弱くはない。周囲の騎士がどこまで対抗できるのか――」


 そう呟いた矢先、騎士達が疾駆し魔物と交戦を開始した。それと共に後衛の役割を担う騎士が魔法を使用。それは雷光系のもので、前衛の騎士達が交戦するより先に魔物へ攻撃を当てた。

 閃光が、一時周囲に満ちる――魔物の咆哮が聞こえ、魔法が効いていることによる反応であることは間違いなさそうだった。


 次いで騎士達が魔物へ仕掛けた。雷光により動きを縫い止められた魔物に対し容赦なく刃を突き立てる。勇者アルザなどは魔物に攻撃しても通用しなかったが、強化を受けた騎士達はどうか。

 刹那、魔物の声が周囲に響く……どうやら刃は深く魔物の体へと入り、倒れ伏した。


「問題はないでしょう?」


 ミーシャが言う。それに俺は頷きつつ、一つ考察を述べた。


「騎士に付与された力は、おそらく魔物と同質の力……もしかして、同質の力同士でなければ、攻撃が通用しないという話なのか?」

「その可能性は高そうですわね」


 ミーシャは俺の言葉に同意しつつ、さらに道具から魔力を発した。


「このままさらに強化を施し、砦を完全に制圧します」

「魔物を倒せるのは良いが、魔物化した人間と遭遇した場合はどうなるか」

「そこについては、実際に戦闘を行わなければわかりません。ただ、抱えられる魔力量はさすがに魔物よりも少ないでしょう。策を講じて対抗してくる可能性はありますが、単純な力勝負であれば、十二分に勝機はあるかと」


 ミーシャが語る間にも騎士達は城門付近を制圧する。そして立て続けに城門を突破し、中へと入り込んだ。


「作戦通りに事を進めます。エルク、行きましょう」

「わかった」


 俺は同意し、騎士達に追随する。砦の中に魔物が複数体いたのだが、そのどれもが騎士による攻勢で滅んでいく。

 おそらく魔物は侵入してきた敵に対し攻撃するよう命じている……はずだ。けれど動きが鈍いため、こうした奇襲を想定していないのかもしれない。


 敵は完全に浮き足立っていると考えていいだろう。このまま突き進めば、砦を制圧できる可能性は高い……が、最大の問題は砦の中にどれだけの敵がいるのか。

 気配を探ってみるが、魔物の気配はあれど人の気配は……いや、魔物化しているというのなら、俺が感じ取っている魔物の気配は人間のものかもしれない。


「……ミーシャ、ここまでは順調だが」

「砦の中には不確定要素が満載です。正直、エルクがいなければここまでは良くても、制圧には犠牲を伴う危険性がありました」


 そう言うとミーシャは俺へ顔を向けた。


「ですが、エルク……あなたの力があれば、どんな苦境も打開できるでしょう」

「ずいぶんと評価しているな……まあいいさ、犠牲を出さないために、やれることはやらせてもらうさ」


 その時、とうとう複数人の騎士が砦の中へ。それを見た瞬間、俺は剣を抜き放ち騎士の後を追う形で、砦の中へと入った。


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