敵拠点へ
ミーシャの言葉に従い、俺は使い魔でセリスへの手紙送った後、彼女と共に屋敷の外へ。おそらくルディン領へやってきた何かしらの方法を用いて討伐隊がいる山中まで移動するものだと思うのだが……どういう手法なのかおおよそ予想はついているのだが――
彼女の案内により、辿り着いたのは屋敷近くの森。ミーシャはそこに躊躇なく入っていく。俺は黙ってそれに続き、やがて地面が見える場所まで来た。
そこにあったのは、魔法陣。複雑な紋様が描かれたそれを見て、俺はミーシャへ言及する。
「転移魔法の使用は、場合によっては国家間の紛争になるよ……」
「今回は緊急事態というわけで、許してくださいませ」
それで終わらせるのもなあ……とりあえずセリスに報告しないと。
――転移魔法、というのはこの世界に存在する極めて高度な魔法だ。漫画においても幾度か使用されていたが、基本的に大規模な施設に加えて様々な触媒が必要であるため、出番は少なかった。
しかも基本的に大規模な魔法であり、国家間の移動を行う場合は露見したら「無断で国に入るな」ということで、大問題になることも多い。よってこうした転移魔法を使う場合――国家をまたぐようなケースは、相手国の許可が必要なのだが。
「……ちゃんとセリスには言うからな」
「わたくしから報告しておきますので」
そうミーシャは言うと、俺に魔法陣の上に乗るよう手で促した。
「さあ、どうぞ」
「……他の騎士が待つ山中へ移動するんだよな?」
「ええ、そうですわ」
「ちなみにもう一つ訊きたいんだけど……転移魔法というのは、移動距離にもよるけどかなり大がかりな設備が必要なはず。でも、ここにあるのは魔法陣だけだ。どうやって移動するための魔力を確保している?」
「そこについては、現地に辿り着いてから説明しますわ」
……俺は小さく息をついた。まあここまで来たのだ。いずれ説明してくれるとのことなので、それを信じよう。
俺は魔法陣の上に乗った。直後、全身が光に包まれ――景色が変化。そこはミーシャが述べた通り山中……というか山道の一角。
俺は立っていた場所から横に数歩移動すると、ミーシャが転移してきた。
「さて、では参りましょう」
「……討伐隊はどこにいるんだ?」
「もう少し先に」
ミーシャは端的に述べつつ先へ進んでいく。俺はそれに追随するほかなく、周囲を見回しながら歩を進める。
景色にはほとんど見覚えがない……ルディン領内ではなく、ここはリーガスト王国内なのだろう。
少しすると、岩場へと辿り着いた。そこにミーシャの帰りを待っていたと思しき男性騎士が一人。
「王女、お帰りなさいませ」
「異常はないかしら?」
「敵に動きはありません。こちらはいつでも動くことができます」
「わかりました。では」
ミーシャは一度俺へ視線を向けた後、
「このまま討伐へ向かいます」
その言葉の直後、岩陰から多数の騎士が出てきた。ミーシャが言ったとおり、三十人ほどの騎士。中には剣と鎧ではなく、軽装の騎士もいて、おそらく魔法を使う後衛タイプの騎士なのだろうと推測できた。
全員が既に戦闘態勢に入っており、いつでも魔物と相対できる様子。ただ、俺が見た感じ何かしら特別な装備などを身につけているわけではない……このまま俺が遭遇した魔物と戦えばどうなるのか――
「大丈夫なのか?」
ミーシャへ問う。それに彼女は微笑を浮かべ、
「ご心配なく、既に準備はできていますので」
「……俺が何を言っても敵の拠点に向かうのは間違いないだろうけど、確認させてくれ。敵は恐ろしいほどの力を持っている。それに対抗する手段があるんだな?」
「はい」
即答するミーシャ。それで俺は息をつき、
「危機的状況になったら、ミーシャを抱えてでも戦場を離脱するからな」
「そうはなりませんので、問題ありませんよ。では、参りましょう」
騎士達が動き始める。ミーシャは一番後方で追随することとなり、その隣を俺が歩くことになる。
「拠点は近くにあるのか?」
俺が問い掛けると、ミーシャは「ええ」と答え、
「外観は、堅牢な砦といったところでしょうか」
「……そんな物を建てる資材はどこから持ってきたんだ?」
「外観からはそれなりに年季が入っていました。長い間、組織が活動拠点として利用しているようなので、長い時間を掛けて大きくなったのでしょう」
つまり、それだけ歴史の長い組織が敵、ということか……ラドル公爵なんかは、どういう経緯で組織と結びついたのか。
様々な疑問が浮かび上がる中、前方の騎士が立ち止まった。俺もそれに合わせて止まった時、前方――まだ視界に入ってはいないが、その先に気配を感じ取る。それは間違いなく、魔物だ。
「作戦を説明します」
ミーシャが口を開いた。
「先陣を切るのは十人。砦の入口付近にいる門番代わりの魔物を討伐します。次いで門を突破し、先陣を切った十人は外にいる魔物を掃討。残りの面々で砦内に侵入し、中にいる魔物と魔物化した人員を掃討します」
「……目的は、砦の制圧でいいんだな?」
俺の確認にミーシャは一つ頷き、
「砦内に存在する資料などは、掃討後にゆっくりと回収すれば問題ありません。注意すべきは魔物化した人員。瘴気を放っているので普通の人間と容易に区別できますが、気配を探り確認するのは怠らないように。ちなみに人間がいた場合、捕らえるように」
「わかった」
魔法か何かで拘束すればいいかな……そう考える間に、ミーシャは騎士達へ目を向けた。
「では早速、討伐を開始します」
そう言ってミーシャは、懐に手を入れて何かを取り出した。




