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今後の方針

 俺は倒れた勇者アルザに駆け寄る。息はあり、怪我もなさそう……助けることができたと内心で安堵する。

 途端、全身が少し重くなっていることに気付いた。戦闘による疲労……それが戦いが終わった後にのしかかってきた。


『エルク、大丈夫か?』


 ジャノが気付いたか問い掛けてくる。


「ああ、平気だ……少し疲れただけだ」

『ふむ、本来ならば我の力を持っている以上、短時間の戦闘では疲労などしないはずだが……適応能力をフル活用したことで、肉体が多少なりとも疲労した、ということだろうか?』


 ジャノが色々と考察する間に、俺はセリスへ目を向ける。彼女はこちらへ近づきつつあり、


「エルク、怪我は?」

「ない……他の人達は?」

「勇者アルザが放った魔力は体から完全に抜けている。私は魔法医じゃないから断言はできないけれど……九割方、問題ないんじゃないかな」

「そっか。予想外の事態に見舞われたけど、どうにか対処できて良かった」


 安堵した俺の言葉に対し、セリスは申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんエルク、対策をすると言っておきながらこんな結果になって……」

「仕方がないさ。何もわからない無茶苦茶な力なんだ……同質の力を持っている俺でもどうにかなるかわからなかったけど……犠牲もなく対処できたんだ。よしとしよう」


 俺の言葉にセリスはなおも表情を変えないまま、小さく頷いた。

 そこで俺は剣を鞘に収めた。次いで自分の右手に視線が向く。


 勇者アルザが持っていた技術。今回の戦いでその全てを出したとは思えないが……その力の一部を得たのは間違いない。剣術など基礎的なものしか身につけていなかった俺にとって、大きな成果と言えるだろう。


「……う」


 その時、勇者アルザが目を覚ました――ここで問題は、力に取り込まれた時のことを憶えているのかどうか。もし記憶しているのなら、どう説明したものか――


「ここは……」

「大丈夫ですか?」


 セリスが近寄って声を掛ける。そこで彼はゆっくりと起き上がり、


「……何が起こった?」

「憶えていないのですか?」


 セリスの問いに、勇者アルザはまず周囲を見回した。倒れる彼の仲間や騎士。そして様子を窺う俺とセリス――


「……黒い力に引き寄せられたような感覚があったが、そこから先は憶えていないな」

「そうですか……あなたは突然漆黒に飲み込まれ、暴走を始めたんです。それに私が対処して、今他の方々の様子を確認しているところです」


 そうセリスが言うと、彼は無念そうな顔をした。


「またも迷惑を掛けてしまったようだな」

「予想ができたわけではありませんし、仕方がないかと」

「そして、皇女に再び助けられたというわけか」


 勇者アルザはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「確認だが、漆黒は消えたのか?」

「はい、魔法でどうにか」


 俺が対処した、ということは語るつもりはない様子……うん、憶えていないのであれば、その方が俺としては好都合だ。

 彼の仲間や帯同した騎士も俺が実際に戦っているところは見ていないので、俺が漆黒の力を使っていることを知るのはセリスだけ……勇者アルザが憶えていない様子なので、とりあえず騒動になることはないだろう。


 まあ彼が実は憶えていて嘘をついている可能性もゼロじゃないが……帰る間に様子を窺って、問題がなさそうかを確認しよう。そう思っている間に他の人達も目を覚まし始めた。






 岩場に存在していた漆黒の力はセリスが倒したということで、俺達は帰ることとなった。彼女と俺が先導し、山を下る……帰りは転倒などの危険性を考慮しつつ進んでいくことになる。

 行きは一度野営を行ったが、帰りは移動速度も速く、なおかつまだ朝の時間帯であったため、このまま順調にいけば今日中に屋敷まで戻ることができそうだった……倒れてしまった勇者の仲間や騎士達へセリスは問題ないか声を掛けつつ、俺達や山道を歩んでいく。


 その道中で俺は幾度となく勇者アルザの様子を窺った。行きはセリスにも声を掛けていたのだが、帰り道は借りてきた猫のようにおとなしく、声を発することはほとんどなかった。

 もし俺との戦いを記憶しているのなら、こちらへ視線を送ってもおかしくないのだが、それもまったくない。やはり記憶が飛んでいるのだろうと推測し、そのことについて俺はジャノへ心の声で伝えると、


『うむ、貴殿の見解で間違いはないだろう。勇者アルザはまったく貴殿に注目していない。それに対し何度も皇女へ視線を送っている』

(セリスに?)

『不甲斐ない戦いをしたことで、思うところがあるのだろう……ひとまず、問題はなさそうだ』


 ジャノの見解を聞いたところで、俺は内心安堵しつつ山を下りた。そして夕刻、太陽が山へと沈んでいくという段階となって、帰還した。

 屋敷内にはまだ町の魔法医がいて、セリスが事情を説明すると彼は勇者達や騎士の容態を確認する。ここまで問題なく返ってこられたので、おそらく大丈夫のはず……そういった見解を持ちつつ、俺は自室でセリスと話をすることになった。


「まず、今回の戦いについてもお礼を。協力してくれてありがとう」


 窓の外で日が沈みつつある中、セリスは俺へそう告げた。


「結局、魔物は全部エルクが倒したね」

「……とりあえず、犠牲もなく良かった」


 安堵の声を漏らすと、セリスは小さく微笑んだ。


「魔物の出現という危機的な状況で、そこは幸いだね……それでエルク、今後のことなんだけど」

「……ジャノ」


 俺はそこで呼び掛けると、テーブルの上に漆黒の球体が出現した。


『どうした?』

「他に魔物の気配はあるか?」

『ここへ帰ってくるまで気配を探っていたが、何も感じなかった』

「ということは、魔物については終わり?」

『うむ……しかし肝心の、魔物の作成者についてはわからない』


 ジャノの発言に俺も、そしてセリスも頷いた。


『皇女としては、根源を叩かなければ終わりではないと考えているだろう』

「うん、そうだね……ラドル公爵のことを踏まえると、敵は組織的な行動をしている。拠点なんかを見つけ出さないといけないのだけれど……」


 現状では何も手がかりがない。地道に足で探していくしかない。


「……山の中に拠点がある可能性は?」


 俺が問うとセリスは難しい顔をした。


「正直、低いと思う。山脈は確かに険しいし、隠れられる場所はあると思うけど、拠点として建物なんかを建てるにはさすがに厳しいだろうし、かといって大人数動けばそれだけでエルクや隣国が気付いてもおかしくないでしょ?」


 その問い掛けに俺は頷く――山でおかしなことがあれば、情報が回ってくる。人が少ないとはいえ入る人がゼロではない。調査として定期的に騎士が入っているためだ。

 よって、山のどこかに拠点がある……という可能性は低いと思うのだが――


「……とりあえず、私は帝都へ報告に行くよ」


 考えている間にセリスは言った。


「そして大規模な調査を行う……魔物相手じゃなくて人間が相手だから、大変だとは思うけれど」

「俺はどうすればいい?」


 領主でここを動くことは難しい。それでも無理矢理理由を作ることはできるが――


「ここは私に任せて」


 質問に、セリスはそう返した。


「エルクの方は、手にした力の訓練を……拠点を見つけ決戦になった時、その力が必要になると思うから」


 彼女の言葉に、俺は「わかった」と応じた。それを聞いたセリスは、さらに続けた。


「ここに使い魔を残しておくから、何かあればそれを利用して連絡して欲しい。それと、気配を探って魔物がいないことはわかったけれど、本当にいなくなったのか断言はできない。当面は山々の方に警戒をお願い――」


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