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適応能力

 漆黒の力に取り込まれた勇者アルザの剣が、幾度となく俺を襲う。こちらはそれをジャノから得た力でいなしながら、なおも彼を止めるための手段について会話を進める。


「俺の力と勇者アルザが持つ力の相殺……現実的に可能なのか?」

『手段はある。今から我がそのやり方を教えるが……剣を当てるには、初めて使う技法を維持しながら、勇者アルザの剣術をかいくぐり、一撃当てなければならない』

「……俺は現在、彼の剣を力押しで抑えている。でも、単純な力押しではない技術が必要だと」

『その通りだ』


 ハードルは高い……が、救える可能性があるのであれば――


「わかった、技法を教えてくれ」

『……確認なのだが、勇者アルザは貴殿にとって大切な人間、というわけではないだろう?』


 ここでジャノが俺へと問い掛けてくる。


『貴殿が骨を折って救う必要性はあるのか?』

「……俺に敵対するような様子を見せている以上、ジャノの視点からは邪魔者を助ける道理はない、ということだな?」

『うむ』

「ジャノの主張は理解できる。でも」


 俺は剣を握り直し、ジャノへ応じる。


「人を助けるのは当然のことだよ……先日の魔物討伐でセリス達を助けたのと、何も変わらない」

『そうか……いいだろう、やれるだけやろうではないか』


 ジャノの言葉を聞き、俺は小さく頷くとセリスへ呼び掛ける。


「セリス! 俺が勇者アルザを抑えるから、倒れた人達の介抱を頼む!」


 彼女はそれに小さく頷いた……同時、勇者アルザが俺へ向け再度突撃を開始する。

 俺は呼吸を整え、それを迎え撃つ……その間にジャノの技法に関する説明が入る。だが正直、それを使う暇はない。魔力量は俺の方が上だけど、技量的に差がありすぎて余計なことをしていると俺の剣が突破されて斬られてしまう。


『――ひとまず、勇者アルザの剣を難なく対応できるくらいにはならないと無理そうだな』


 俺の動きを見てジャノは言う。確かにそうだが――果たしてどのくらい時間が掛かるのか。

 戦いそのものが終わらず、先にこちらが力尽きる可能性がある……だが、やらなければならない。俺は気持ちを奮い立たせ、勇者アルザを迎え撃つ。


 そこで勇者の剣術が俺へと迫る。斬撃の速度は漆黒の力によって増し、無表情で意識がなさそうであるにも関わらず剣術は冴え渡り、差し込まれる刃は鋭い。力で上回る俺はそれをどうにか、無理矢理回避し対応しているが……、


「くっ!」


 声を発しつつも、勇者の猛攻をしのいでいく。苦しいのは確かだが、それでも少しずつ目が慣れ始め、次第に高速の剣に対応し始める。

 差し込まれる剣の軌道を、俺は理解し始める……それを見ながら、俺は勇者アルザが持つ剣術――その動き方を感覚でつかみ始める。


 俺はそこで勇者アルザの剣に対し、軌道などを把握した上で受け止めた。すると再び鍔迫り合いになったが……それをいなし、今度は反撃に剣を振った。

 勇者アルザは俺の剣を避ける……当たらなかったが、反撃できたという進歩があった。そこでさらに、彼を取り巻く魔力などについても、鮮明に理解し始める。


『……適応が早いな、エルク』


 そうジャノが言う……が、それに対し俺は何も答えられなかった。なぜなら、当の俺自身が困惑したためだ。


「いや、いくらなんでも早すぎないか?」


 勇者アルザがなおも攻め立てる。だがこの段階に至り、俺は彼の剣を防ぎながら、その動きなどを予測できるようになっていた。


「もう勇者アルザがどう動くか、頭の中で推測できるようになっているぞ……!?」

『ふむ、勇者の剣を正面から受け、瞬時に対応できている……貴殿が困惑するほどに。これこそ我が持っていた力の本質であるなら、一応説明はつくが』

「力の……本質?」


 聞き返す間に俺は勇者の剣を弾く。この段階に至り、俺は先ほどジャノが説明した技法についても使用できるくらいの余裕ができていた。


『我が持っていた力は単純な破壊能力……というわけではなかった。ヒントは貴殿が持っていた記憶にあった。エルク、前世の漫画では我の力に乗っ取られた貴殿が勇者アルザを倒したはずだ』

「ああ、そこについては漫画でも描写がある」

『その戦い方は貴殿も憶えているだろう』

「勇者アルザと真正面から戦い……つまり、今の状況と同じだな。最初は彼が優勢だったが、次第にジャノの力が圧倒し始めた……」


 漫画でも今と似たような状況になった……結果、勇者アルザが敗れた。


「ジャノは漫画と同じような状況になっていると言いたいのか?」

『そうだ。漫画の描写も、最初は勇者アルザが技術で圧倒した。しかし、次第に邪神エルクが優勢となり勝利した……それ以降も邪神エルクは技量面で他者を圧倒した。これはおそらく相対した敵の能力を瞬時に把握し、その身に宿すことができる適応能力を持っているためだろう』

「適応……能力……」


 会話をする間に、俺は勇者アルザの剣術をほぼ看破してしまった――彼が剣を振る前に魔力をどう動かすのか。それに合わせ漆黒の力も連動する。そして彼がどのように剣を振るのか……また、どういった癖があるのか。

 極めて短時間の戦いだったが、俺はそれらをあっさりと見抜いてしまった……当然俺の能力ではない。ジャノの言う通り、漆黒の力に備わった能力なのだろう。


『他ならぬ我自身も理解できていなかったが、ただ単純に破壊し尽くす特性ではない……思えば、我らが交戦した魔物もどう攻撃すれば最適なのか、把握していた。最初に戦った獅子はエルクとの距離を理解し、突撃による攻撃を選択した。セリス皇女達が相手にした虎の魔物は、攻撃を受けても問題ないように身を守り、勇者達を圧倒できる攻撃手段を用い、気絶させた』

「つまりジャノの力には、戦闘における学習能力や、相手に対し瞬時に適応できる能力があると」

『うむ、そういうことになるな』


 技術を習得する力、というのは俺としてはピンと来ないが……いや、戦いを通して相手の能力を把握できる、ということならある程度納得はできるか。

 とにかくジャノが持っていた力は単なる破壊だけではない様子……俺はこれならいけると判断。ジャノへ向け告げる。


「ジャノ、勇者アルザの能力もおおよそわかった。このまま教えてもらった技法で仕掛ける」

『いいだろう、勝負は一瞬だ。ただ、加減を見誤れば勇者アルザがどうなるかわからない。細心の注意を払え』


 助言を受けながら俺は足を前に出した。それに対し勇者アルザは無表情ながら魔力を発する。なぜお前が攻める――そんな風に語っているのだと俺はわかった。

 彼はどうにか対応しようとしたが――ここは俺が一枚上手だった。勇者アルザの能力を見極めていた俺は、彼が何もできない速度で間合いを詰めた。結果、俺の刃が勇者アルザの胸元へと入った。


 そして振り抜き、勇者アルザの体が大きくよろめいた……が、鮮血などは生じていない。手の感触は確実に手応えがあった。だがジャノから教えられた技法――魔力を相殺する技法を剣に収束させた結果、刃によって斬ることができず傷を負わせることはできなかった。

 だが――俺は勇者アルザを注視。もし失敗しているのならすぐさま俺へ仕掛けてくるだろう。そうでない場合は……成功したのであれば、彼はどう反応するか。


 その直後だった。突然勇者アルザの体から、大量の魔力が蒸気のように体から発散された。黒い力が瞬く間に天へと昇り消えていくのを見て、成功したのだと俺は確信した。


「思った以上に、短時間でなんとかなったな」

『うむ、我が持っていた力がきちんと活用された結果だな』


 ジャノが言う。それと同時、勇者アルザから漆黒の力が抜け……彼は倒れ伏した。


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