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光と黒

 野営地に戻った後は、特に何事もなく一夜を明かした――皇女であるセリスが何の違和感もなく野営しているし、誰も何も言わないのだが……まあ、彼女は何年も魔物と戦い続けている。これが彼女にとっての日常なのだろう。


 一方で俺の方は……魔物を警戒し交代で見張りをすることになっていたのだが、勇者アルザから「案内役ということで眠っていてくれ」と指示された。セリス以外、俺は戦力的に当てにならない存在だと認識しているので、これは至極当然……それでも見張りくらいはと思ったのだが、セリスも「休んで欲しい」と言い、俺は従うことにした。

 明日現場に辿り着いた時、場合によっては俺が最前線で戦うことになる……体力を温存しておいて欲しい、という考えが彼女にはあったのだろうと予想できた。


 よって、俺は眠りに就いた……ちなみに俺自身、野営するのは初めてではない。この山々に眠る鉱物資源などの調査で綺麗な星々を見ながら眠ったことはある。その時は来なくてもいいと言われたが、山について知識を得た方がいいと思い、調査に参加した。俺としては良い経験になったし、それが今案内役という形で活かされている。

 よって俺はあっさりと眠ることができて……翌朝、他の人達が起床すると同時に起きて出発する直前には支度を整えた。


「では、進もう」


 勇者アルザが号令を掛け、俺達は移動を再開する。ここから目的の場所までそう遠くない。おそらく朝の時間帯には辿り着くはずだ。

 行きは山を登る必要があるため時間が掛かるのだが、帰りは転倒など怪我をするリスクがあるにせよ、屋敷に戻るまでの所要時間は短い。もし目的地に到達して首尾良く魔物を倒すことができれば、今日中に屋敷まで戻ることはできるだろう。


 問題は、魔物と戦う場合どうするか……セリスは対策を立てたと言っていたが、果たしてそれが通用するのか――


 思考する間にいよいよ現場へ到着する。そこは山岳地帯の中で平坦になった土地で、雑草などはほとんど生えておらず、土地の中心部分に大地から隆起した鋭い岩壁が一枚存在している。

 そして俺達が目標としていた魔物は……その岩壁を背にして存在していたのだが、


「……何だ、あれは?」


 最初に声を発したのは勇者アルザ。そして他の者達――俺やセリスを含めこの場にいた全員が、目標を見据え立ち尽くした。

 岩壁にあったのは、空中に浮かぶ球体。大きさは人の頭ほどだろうか。色は漆黒で、凝視すれば吸い込まれそうな雰囲気をまとわせている。


 まるでそれは、ジャノが外へ出た時のような不気味な光景――


(ジャノ、あれは何だ?)

『……どうやら、純粋な力の塊のようだ』


 胸中で問うと、ジャノから即座に返答がきた。


『意図的なものなのか、それとも偶発的なものなのか……どちらにせよ、むき出しの力がこの場に留まっているようだ』

(破壊は可能か?)

『これまでと同様にエルクが斬れば消滅するはずだが……問題は、近づいたらどうなるのか』


 近づいたら……不気味な漆黒は、接近した人間を飲み込んでしまうような気配さえある。不用意に近づくのは危険かもしれない。

 それはどうやらセリスも察したらしく、漆黒を少しの間観察した後、指示を出した。


「……勇者アルザ、どうやら通常の魔物とは異なる様子。接近すればどういった影響があるかわかりません。ここは魔法によって破壊を試みます」

「わかった。それが無難だろう」


 アルザは同意し、後方にいる彼の仲間である魔術師へ声を掛けた。


「皇女の支援を」


 ――そして、セリス達は動き出す。前に出るのは彼女を含めここまで帯同してきた後衛の魔術師達。セリスが破壊方法について簡単に説明すると、彼らはまず散開した。


『力が存在する岩壁を中心に魔法陣を構築。そこに仕込んだ魔法によって力を破壊、といったやり方だろう』


 俺が見ている間にジャノから解説が入る。実際、魔術師達は地面に手を当て魔力を大地へと注ぎ始めた。


『むき出しの力は道具に封じられているといったわけでもなく、魔物のように肉体を有しているわけでもない。純粋な力の塊であり、あれならば魔法で破壊ができるはずだ』

(肉体といった器がないから、魔法によって力を消すことができると)

『そうだな』


 俺がジャノと会話をする間にも、セリス達はテキパキと作業を進めていく。それは手慣れた動きであり、こうして連携し作業をするようなことも多々あったのだろうと予想できる。

 ふと、俺は世界を滅ぼす力を持っているとしても、目の前のような連携はできないと思った……セリスと肩を並べて戦うとすれば、目の前で行われる作業のように、戦闘以外のこともできるようにならないとダメなのだろう。


 俺にできるのか……やがて、セリスが一通り作業を終える。そこで準備を手伝っていた魔術師達が下がり、彼女は勇者アルザへ最終確認を行う。


「魔法を発動し、存在する漆黒の力……その破壊を行います。ただ強度はわかりませんから、ひとまず魔法を使用し、どれだけ力を削れるか試してみます」

「わかった。俺は周囲の警戒を行うとしよう」


 勇者アルザは近くにいた仲間の戦士や騎士に指示を出す。彼らは頷き、魔法陣の範囲を避けるようにして周囲に展開する。

 そこで、セリスがいよいよ魔法を起動させた。大地に刻まれた魔法陣が光り輝き、その中心に漆黒の球体が――やがて光が黒を飲み込んだ。


 大地から発せられた光で漆黒を覆い、俺達に被害が出ないようにして処理をする……彼女の目論見が果たして成功するのか。


(……ジャノ、いけそうか?)

『わからん』


 俺の問い掛けにジャノは即答した。


『力の塊であるなら、例えば魔法などで干渉しても動くことはない……はずだ』

(力自体が意思を持っているわけではないからな)

『うむ、そうだ。ただ……』


 ジャノが何かを言いかけた時だった。突如、黒を覆っていた光が弱まり始めた。セリスはそれをすぐに察したか、杖で地面を叩き魔法陣から発せられる魔力を増やす。


「魔法に反応した……!?」


 セリスが声を発する間にさらなる変化――漆黒が光を押しのけ、魔力を発した。それは魔物が発する人にとって有害な魔力である瘴気に似ていたが、瘴気とは明らかに違うとわかるくらいに、異様な力だった。


「一体何が――」


 セリスは声を発しながらさらに処置を施そうとして……だがそれよりも先に、漆黒へ向け動き出す人物がいた。それは


「……勇者アルザ!?」


 叫んだのは俺。近くにいた彼が、突然漆黒の力へと歩みを進め始めた。


「どうしたんですか――」


 俺は近寄り声を掛けた時、彼の横顔を見た。そこに表情はなく、ただ目前に存在する漆黒を見据え、歩み寄ろうとしていた。

 まずい、と俺は胸中で悟り彼の肩をつかんだ。明らかに様子が変だ。止めなければ――そう思ったが、その直後勇者アルザは俺の手を振り払うと猛然と駆けだした。


「おい――!?」


 声を上げた時には全てが遅かった。セリスも勇者アルザの動きに気付いていたみたいだが、対応は一歩遅れた。結果、光が消えていく中、彼は漆黒へ接近し――次の瞬間には、彼の体が漆黒に飲み込まれた。


「あ――」


 勇者アルザの仲間が、声を発した。だがもう彼を連れ戻すことはできず……刹那、漆黒が急速に縮小を始め――セリスの魔法が完全に消えた直後、漆黒を取り込んだ勇者アルザの姿が、俺に視界に映った。


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