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作戦会議

 突然テーブルの上に出現した黒い気配をまとう球体からは、明らかに異質な力を感じることができる……うん、ジャノが言った通り見てくれは悪い。


『初めまして皇女。ああ、自己紹介は必要ない。エルクから記憶を得ているからな』

「……口調がずいぶんと軽いけれど」

『それはエルクの記憶、並びに彼が持つ転生前の人格による影響だな』

「あなたはエルクの体に現在、寄生しているような形になっているの?」

『それに近いな。エルクが得た力にへばりついている人格だからな。とはいえ、宿主である彼のプライバシーは可能な限り守っているぞ。必要な時以外は眠って意識を飛ばしているし、最初に記憶を見た以降は、頭の中を覗いてもいない』


 本当か、と俺は思ったが……ジャノ自身が嘘をつく理由が何もないので、たぶん本当のことなのだろう。


『皇女が色々と懸念しているのはもっともだが……力は強大で、場合によっては世界を破滅に追いやるものではあるが、今の我はエルクの意思に従っており、彼が破滅を望まない限り、何かをするつもりもない』

「……言葉に偽りはなさそうね」


 彼女はそう呟くと、俺へ目を向けた。


「話の内容は信じられないものだけど……エルクが嘘偽りなく話しているのはわかったよ。だから、信用する」


 ――彼女の言葉を聞いて、俺は心の底から安堵して机に突っ伏すように脱力した。


「よ、良かったあ……」

「ものすごく緊張してたね、エルク」

「当然だろ、セリスに説明できなければ人生終わってたからな」


 顔を上げると苦笑する彼女の姿。ひとまず、俺やジャノに対し敵意はない様子。


「……それで、エルク。体調とかは問題ないの?」

「ああ、そこは平気だよ……まあ、本当なら魔法医に診てもらった方がいいのかもしれないけど、経緯が経緯だし、ジャノの力は見てくれ最悪だから、騒動を避けるのなら何もしない方が無難かな……」

「もし何かあれば私に言って。どうにか内密に対処してもらうから」

「……さすがに、セリスに迷惑は掛けられないよ」

「でも、元を辿ればラドル公爵のせいでしょう?」


 そこでセリスは再び申し訳なさそうな顔をした。


「改めて、皇族を代表し謝罪を……本当に、ごめんなさい。皇族同士の政治闘争に、あなたを巻き込んでしまった……しかもエルクの前世にあった漫画の筋書きがあったかもしれないと考えると、公爵は帝国に反逆の意思がある」

「でも、現時点で証拠はないよな」

「うん、だから罰することはできない……けれど、この事実は兄上やお父様にもきちんと報告する。そして」


 途端、セリスの眼光が鋭くなった。


「公爵には――報いを受けてもらう」


 こ、怖い……。俺からは何も言わないことにして、話を進めることにする。


「えっと、それで問題の魔物だけど……」

「あ、うん。私が倒したことになったけど……」

「俺の力を今、公表するのはまずいからそういう形にしたんだけど……」

「そこは仕方がないと思うけど、問題は他に同様の魔物がいた場合……実は数ヶ月前から、帝国内で不穏な動きがあるとして、色々と情報が舞い込んでいたの。そして関連する魔物が現れていて、私は勇者や騎士と共に魔物を討伐するために動いていたんだけど」

「あの魔物と遭遇したのは何度目だ?」

「実を言うと、初めてだった……相まみえた時思ったのは、このまま戦うのは危険だという予感。エルクがいなければ、最悪の結末もあり得た」


 最悪……ということは、全滅か。セリスでさえそう思うほどの魔物……。


「エルクの話を聞いたらそれも納得はできる。世界を滅ぼすだけの力を持っている……普通なら、人間が勝てるような存在じゃないよ」

「でも、俺はその力を持っているから倒せる……」

「しかも、倒せば倒すほど強くなれる」


 セリスの指摘に俺は頷く。そして、


「ジャノの話によれば、残る魔物は一体だ……どう、するんだ?」


 問い掛けにセリスは沈黙し考え込んだ……今日の戦いを踏まえれば、同じように勇者達と赴けばどうなるか――


「……エルク」

「ああ」

「本当なら、エルクに頼むようなことはしたくないけれど……残る魔物討伐について協力、してくれる?」

「もちろんだ」


 即答――以前の俺にとって望んだ状況。でも、今の俺にとっては決して喜ぶような話ではない。

 間違いなく、帝国の危機が迫っている。しかも放置すればそれは、世界の危機になるかもしれない――俺に魔物を倒す力があるのなら、手を貸すのは当然だ。


「セリス、確認だけど勇者達と一緒に向かう、でいいんだよな?」

「うん、さすがにエルクだけに任せられないし、同様の魔物が相手なら、事前に色々と対策はできるだろうから……足手まといには、ならないようにする」


 セリスはそう述べると、少し間を置いた後、


「エルクが同行してもらう名目としては、山のことを知っているから、ということでいいかな?」

「領主自らが、という点についてツッコまれる可能性はあるけど……」

「私が指名することで屋敷の人なんかには納得してもらうよ。同行する勇者や騎士の方々には……エルクは知られていないけれど、魔物と戦う能力があるから、と説明すればなんとか」

「結構強引だけど、それしかないか」


 俺は納得し、話はまとまった……問題は、残る魔物を倒して事態は解決するのか。


「セリス、今回の問題についてだけど、どうなったら解決になるんだ?」

「交戦した魔物は自然発生したものではなく、明らかに誰かの手によって作られている。その作成者を捕まえない限り、終わらない」

「そうか……うん、そうだよな」

「でも、気配を探知できる魔物を倒すことができれば、ひとまず事態は落ち着くと思う。だからまずは残る魔物を倒して、正式に報告を行って……かな」

「わかった。まずは何より、残る魔物だな」


 俺はそう返事をした後、今もテーブルの上にわだかまっているジャノに目を向けた。


「ジャノの方は何か意見とかあるか?」

『皇女に確認だが、我はあくまでこのルディン領周辺の気配を捉えているだけだ。首謀者を含め、他に魔物がいる可能性は否定できないが、そこは問題ないか?』

「ええ、そこは仕方がない。まずは見つけている魔物を倒すところから」

『よかろう。一つ捕捉だが、最後に捉えた魔物の位置は西側にあり、一切動いていない』

「動いていない?」


 セリスが聞き返すと、漆黒の球体は僅かに揺らいだ。


『そうだ。我が魔物の気配を初めて捉えたのは一昨日だが、その間一切動いていない。考えられる可能性としては、普通の魔物ではない』

「……どういうことだ?」


 今度は俺が聞き返すと球体は再び揺らぎ、


『自らの意思で動くことができない個体……植物でも模したか、あるいは何か事情があるのか』

「――動かないというのであれば、好都合」


 そうセリスは言うと、俺とジャノへ提案を行う。


「私が索敵の魔法を使って西に魔物がいることを察知したと説明。案内役をエルクに頼んで、討伐に向かう……それでいい?」

「ああ」


 俺の返事を聞き、セリスはこちらの目を見ながら、最後に告げた。


「間違いなく帝国に危機が迫っている……絶対に、ここで止める」


 彼女の言葉に俺は深く頷いた――セリスは強い決意をみなぎらせ、俺はそれに全力で応えよう――そう静かに決意した。


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