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皇女の問い掛け

 屋敷に戻ると、セリスに加え勇者一行や騎士の来訪――侍女や執事は慌てふためきつつ、その対応を始めた。そして魔法医を屋敷へと呼び、勇者達から随時診察を行っていく。

 俺はその間に一度セリスと話をすることになった……俺の事情を知りたいというのも理由だろうけど、俺の方もなぜ連絡なしにルディン領で魔物討伐を行っているのか理由を知りたかったので、きちんと事情を把握しておくべきだった。


 話をする場所は最初客室のつもりだったのだが……なぜかセリスの要求で俺の部屋になった。お茶を用意しようと言ったが「今はいい」として拒否。結果として、俺は何も乗っていない丸いテーブルを挟み、椅子に座りセリスと話をすることに。


 ――たぶん、人が来るのを防ぐために俺の自室を選択したのだろう。そういった推測を抱いていると、セリスが話し始めた。


「まず、エルクが気になるところから。なぜルディン領内に私達がいたか、という点だけど……」

「ああ、普通なら事前に連絡があるはずだけど……あの魔物、移動していたのか?」

「うん、私達が討伐内容を聞いた時は、隣の領地にいたの。そっちには連絡していたのだけれど……」

「実際にはルディン領内に入り込んでいたか」

「そういうことになる」


 それは間違いないのだろう。セリスが誤魔化すようなところでもないので、俺はすぐに納得した。


「こちらから質問しようとしていた内容はセリスが言ったことだけだ」

「そう、わかった。なら」


 と、セリスは俺へ視線を送る。


「私から質問を」

「ああ」


 さて、どういう疑問か……ここへ来るまでに想定解についてはジャノと色々打ち合わせをした。無論、時間的な制約から完璧には程遠いけれど、もし想定した質問でない場合は、ジャノから別に助言を受けることになっている。

 咄嗟の対応とか、そういうの苦手だからな俺……前世においても、今のエルクにおいても同じなので、これは性分ということで受け入れるしかない。


 というわけで万全とは言いがたいが、対策はできている……まずは力について尋ねるか、それとも何故あの場にいたのかを訊くのか。

 俺は頭の中で色々と思い浮かべ、ジャノと相談した内容を確認していた時、セリスは口を開いた。


 その内容は――俺達の想定解を吹き飛ばすようなものだった。


「あなたは……誰?」

「……え?」


 問われ、思わず聞き返した。何を言っている、俺は――答えようとしたところで、セリスの目が鋭くなっていることに気付く。


「最初、何かしらの理由で力を得たことによる影響かと思ったけれど、それでは説明がつかないことがたくさんある」

「えっと……何を……?」

「エルクが力を得た経緯なども気になるけど、まずは訊きたい……数日前と、あなたの所作が明らかに違う」


 その言葉に、俺は何も言えずただ彼女を見返すことしかできない。


「歩き方や会話をしている時の視線の配り方、目を見て話をする際、瞳の動きや揺らぎ、さらに言えば会話をしている時のイントネーションも僅かだけど違っている。あなたが持っていた癖だって変わっているし、ついでに言えば屋敷に入った時、使用人達への指示の出し方だって普段とは違っていた」

「――――」

「その全てが、力による変化だとは考えられない。だってどれだけ力を得たとしても、使用者が代わらなければ普段から見せる癖や話し方なんて変化するはずがないから。でも、エルクは変わっている。なら、可能性としては……エルクの体を魔物を倒した時に見せた黒い力が乗っ取っていて、エルクの真似が完全ではない、ということなのか」


 ……彼女が話す内容に対し、俺は背中から嫌な汗が噴き出る。


「でも、全てが偽物というわけでもない……だから、尋ねているの。あなたは……一体、誰なの?」


 ――ひ、ひええええ……っ!


 思わず心の中で悲鳴を上げた。話し方とか所作で、何もかもご破算になっていたらしい。

 原因としては、前世の記憶が入り込んだせいだろう。ジャノは一切関係なく、無意識の内にエルクの所作と前世の自分の所作が混ざっているのだ。


 この状況では、屋敷へ戻るまでに話をしていた相談など全て無意味だった。俺が本物のエルクであるかどうか怪しまれている。いや、彼女としては限りなくクロに近い状況であり、一縷の望みを掛けて尋ねている、という形のようにも思える。

 もし誤魔化そうとしたら、容赦なく魔法が飛んでくるだろう……今の俺ならきっと彼女の攻撃は防げる。だが、領主エルクという立場は消えてなくなる。なら、この状況を打開する方法は――


『これは、お手上げだな』


 そしてジャノは降参の意を示した。


『エルク、真実を話すしかあるまい。皇女にとっては荒唐無稽な内容であることは間違いないが、最後の可能性……彼女の目を見ながら真摯に話せば、信じてもらえるかもしれない。というか、その可能性に賭けるしかない』


 ……いや、さすがにキツいだろと思ったが、現状ではそれしか手段がないのも事実。とりあえずセリスは俺の返答を待ってくれているのか、こちらが沈黙していてもただじっとこちらを見るだけ。

 下手なことを言えば、全てが終わる。ならば、もう――


「……その、俺にとってもこの数日の間に起こった出来事は極めて無茶苦茶だ。それを話して、信じてもらえるかどうかわからないんだけど――」

「話して」


 ほんの少し、セリスの雰囲気が和らいだ。こちらが少なくとも敵対するつもりはないため、話しやすいよう態度を軟化させた。

 ……俺は覚悟を決めた。まあ、どちらにせよ彼女を味方にしなければいけなかったのだ。それが今日このタイミングになっただけだ。


 果たして、信じてもらえるのか……不安が胸の内を占める中、俺は彼女の目を見ながら、ゆっくりと語り出した。






 最初、彼女が反応したのはラドル公爵が俺に力を提供したという部分。それを話すと、セリスは露骨に申し訳なさそうな顔をした。

 皇女である以上、政争なんてものは日常茶飯事で、公爵がここに来ることの意味を彼女は話さずとも理解してしまったらしい……ともあれ、話の本筋からはズレるので、そんな様子に気付きながらも俺は話を続けた。


 誤魔化した瞬間、顔面に魔法が飛んでくることは確定なので、俺は余さず全ての情報を開示した。転生前の記憶についても話した上、漆黒の力を得た後、本来ならどうなっていたのか……前世の知識についても語った。漫画という点については少々説明を要したが、セリスは口を挟まず俺の話を聞き続けた。

 そして、ジャノに言われ魔物討伐に赴き、今日セリスと鉢合わせした……という点まで説明し終えて、


「話としては、以上だけど……質問とかある?」


 俺はセリスへ尋ねた。対する彼女は、こめかみに指を当てて考え込む仕草を見せた。

 この反応は無理もない。正直、転生云々の話をした時点で情報を処理できるかも怪しいのでは、と思うくらいなのだが――


「……エルク」

「うん」

「その、ジャノ……という存在と、私は会話ができたりする?」

(……ジャノ、できるのか?)


 俺はセリスの質問に対しまずジャノへ向け心の声で確認を取る。


(一連の話の中で、直接話がしたいみたいだけど)

『可能だが、見てくれは悪いぞ』

「……見てくれは悪いけど可能だと言ってる」

「なら、お願い」


 セリスが返答した直後、俺と彼女の間にあるテーブル――その上に、漆黒の球体が突如出現した。


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