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漆黒の剣戟

 両足に魔力を集め、駆ける――その動作は昨日と今日練習したが、まだまだ大雑把でセリスと魔物の間に行けるのか不安ではあった。

 だが、そうした感情も走り出した瞬間に全て消えた。必ず、到達できる――そんな確信と同時、魔物がセリスへ仕掛けた。


 彼女はそれに杖を構え応じようとした。互いが攻撃準備を始め、もしぶつかったらどうなるのか……そこまで考えた時、俺はとうとう彼女の下へ到達し、前へと出た。

 その瞬間、魔物は新たな人間に足を止める――同時、後方でセリスが息を飲むのが、気配でわかった。


「……え?」


 そして、声をこぼした。その時点で既に魔物は後退し、俺に注目している。


「……エ、エルク?」


 そしてセリスは名を告げた。本来、こんなところに人がいるはずがない。加え、その人物が俺であるなんて到底信じられない――二重の驚愕によって、セリスの声はひどく呆けたものだった。

 だが、状況は会話を許さなかった。魔物がうなり声と上げると同時、攻撃目標を俺に返る。


「――話は後だ! 倒れている人の保護、できるか!?」


 俺が叫ぶと後方にいるセリスは反応。


「わかった、エルクは――」


 彼女の言葉に俺は返答ではなく行動で応じた。足を前に出して魔物を迎え撃つ。同時に両腕から魔力を剣へと注ぎ――漆黒が刀身にまとわりついた。

 魔物は突撃を行う。狙いが俺に絞られたことで、こちらとしても対応がしやすくなった……魔力を迸らせながら、俺は剣を薙いだ。魔物はそれでも俺に食らいつこうと突撃を止めず――剣が、魔物の頭部に直撃した。


 次の瞬間、闇が剣先から放出され巨大な刃に変じて魔物を両断した。魔物の突撃すら完全に止め、その胴体は見事に両断される……剣からは漆黒が消え、白銀の刀身を見せる。

 そして、真っ二つになった魔物は塵となってこの場にいたという痕跡さえも消え失せる……俺は息をつきながら剣を鞘に収めた。魔物討伐は二度目だが、まだ力を使いこなすには程遠いけど……どうにか倒せた。


 そこで魔物から発せられる光……それは一度目と同様に俺へと吸い込まれた。途端、さらに膨らむ力。これで世界を滅ぼす力となったかはわからないけど……検証は、後日だ。

 そして後方は……振り返ると、俺のことを見るセリスと目が合った。


 ――彼女としては訊きたいことがいくらでもあるだろう。しかし、すぐに倒れる勇者達に目を向け、


「まず、倒れている人達を介抱したいのだけれど、いい?」

「……わかった」


 俺は頷き、彼女と共に勇者達へと近づいた。






 平らな場所へ勇者達を寝かせ、セリスはそれぞれの様子を確認する。魔物の咆哮によってどのくらいダメージを受けているのか――


「……うん、問題はなさそう」

「怪我はない?」

「至近距離から轟音と魔力を浴びて、気絶してしまった……けど、目立った外傷はなし。これならすぐ目覚めると思う」


 言ってから、セリスは胸をなで下ろす……下手すれば多大な犠牲が出ていたかもしれない戦い。それを犠牲者ゼロにできたのは、何より幸いだった。

 とすれば、次に来るのは……セリスは俺へ顔を向けた。いよいよ質問が来るか――そんなことを思った矢先、声がした。


「ぐ……」


 勇者からのものだった。彼は目を開け、すぐさま近くにいたセリスへ目を向ける。


「皇女、これは……」

「大丈夫ですか? 魔物の咆哮によって、気絶してしまったようです」

「そうか……申し訳ない、無様な姿を見せてしまった」


 勇者は起き上がると、俺の存在に気付き目を向けた。


「……君は誰だ?」

「初めまして、エルク=リュービスと申します」


 俺の名前を知っているとは思えないので、部外者がなぜここにいるのかという疑問が出るだろうけど……と思ったが、何かを察したかのような顔をした。


「リュービス……ということは、ルディン領に入ったのか」


 知っているのか、と内心俺は驚きつつも首肯した。


「はい、そうです……あの……」

「なぜここにいる?」


 ――まあ当然、そういう質問をするよな。ただこれは、勇者達を介抱する間に考えてはいた。


「領民から南側の山から獣のような声がすると話を聞き、調査を」

「調査……?」


 そこで勇者は周囲に首を向け、


「領主一人で、か?」

「本来は護衛を伴って行うものですが、私自身外に出る用があり、そのついでに少し調べようかと思いまして……ここは岩山ですが、幾度となく入っていて庭みたいなものですし」


 少し苦しいかな、と思ったが勇者はとりあえず納得はした様子。


「それで……皇女」


 俺に興味をなくしたか、勇者はセリスへ話を振る。


「先ほどの魔物はどうなった?」

「それは――」

「私が駆けつけた時、戦いは終わっていましたよ」


 そこで俺はセリスの言葉を遮るように告げた。


「皇女が既に魔物を倒していました」


 俺はセリスに視線を送る。彼女は何か言いたそうな表情を一瞬見せたが……それで通してくれというこちらの視線により、何も言わなかった。

 勇者は俺の言葉に「そうか」と返事を行い、


「皇女、助けられたようだな。俺もまだまだ修行が足らないか」


 そう言った時、勇者以外の者達も目が覚め始める。そこで俺はセリスへと提案する――人もいるため、口調は丁寧なものに。


「皇女、一度私の屋敷へ向かうのはどうでしょう? 念のため、魔法医に診てもらうべきだと思いますが……」

「……そうですね。領主エルク、お願いできますか?」


 セリスが要求――人がいる時、セリスは皇女として言葉遣いは丁寧になり、俺に対する呼称も変わる。

 問い掛けに俺は首肯し、勇者はセリスの言葉に従って仲間や騎士へ山を下りるよう伝える。


 全員が動き出し、俺とセリスは一行を先導する形で進んでいく……さて、魔物は倒したが問題はここからだ。どうやってセリスに説明するか――


『エルク、一ついいか?』


 ここでジャノが俺へ語りかけてきた。


『今まで貴殿は喋りながら我と会話をしていたが、我の存在を意識して心の声を出せば、会話ができるぞ』


 え、本当か? 俺は少し疑いつつ、なんとなく黒い球体をイメージしつつ、


(……ジャノ、聞こえるか?)

『うむ、聞こえる。まずはどう説明するか、移動中に決めてしまおう』

(助かる、俺一人では絶対解決できないからな)

『問題は公爵のことをどう説明するか、だが』

(う、うーん……そこが大きな問題だな。そもそもセリスは公爵がルディン領を訪ねていることを知らない。それを話すと、どういった経緯で公爵がいるのかという点から話さないといけないんだけど……)

『公爵がここを訪れることについては、別に話しても問題はないのでは?』

(まあそうか……ただ悪意を持って、ということは伏せた方がいいな。当然、ジャノのことも話すべきではない)

『漆黒の力は見せてしまったため、それが危険なものでないことをきちんと説明しなければならんな――』

「――大丈夫ですか?」


 ふいにセリスから声がした。見れば、心配そうに俺を見る彼女が。


「どこか上の空である様子ですが……」

「あ、いえ、大丈夫です、問題ありません」


 勇者達がいる手前、きちんと丁寧に応じつつ……あまりジャノとの会話に没頭すると怪しまれるかもしれない。注意しないと。

 ただ、道中で気になることが一つ。なんだか横にいるセリスが逐一俺の様子を窺っている……俺の力が気になっているのは間違いないが、それ以上に何か……俺の歩く姿を観察しているように思える。


 怪しまれるような動きはしていないと思うけど……いや、ジャノと会話をしていることが、何かしらの形で表に出ているのだろうか? 疑問に思いさらに注意を払いつつ、俺はジャノと会話を重ねつつ。セリス達を引き連れて屋敷へと戻ったのだった。


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