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漆黒を斬る

『球体から感じられる気配は確実に弱まっている。だが、破壊には至っていない』


 俺は何も答えない……いや、答えられないと言った方が正しい。全ての意識を剣に傾けているため、ジャノの声を聞くことしかできない。


『おそらくあと少しで両断できるだろう……しかし、その少しに到達するまでに、エルクの攻撃がもつかどうかわからない』


 それは、つまり――俺が結論を導き出すより先に、ジャノは語る。


『故に、確実な手段をとる……さらなる力を叩き込む。その力で、漆黒を斬れ!』


 俺は何も答えられないままだったが、次の瞬間には膨大な力が剣へと雪崩れ込んできた。俺は必死に力を制御し、最後の力を振り絞り、剣を押し込んだ。

 刹那、さらに球体に刃が食い込み――次いで、一気に両断した。刀身に注がれた力はそれで止まらず俺は地面まで叩き切る。直後、真正面は俺が発した力によって真っ白に包まれ……体の感覚が消え失せると共に、意識も光に飲み込まれるように途切れた――






「――ルク! エルク!」


 名が呼ばれた。それがセリスの声であると気付いた時には目を開けた。

 どうやら自分は地面に倒れているらしかった。視界には青空と俺の顔を覗き込むセリスが見えた。


「……セリス」

「良かった……無事で……」


 泣きそうな顔でセリスは言う。俺は何か言おうと思ったが咄嗟に声が出ず……少し遅れて、はっとなった。


「セリス……天幕の中にあった――」

「破壊できたよ。エルクのおかげで」


 その言葉に俺は安堵する。そして体は動かせることに気付いてゆっくりと上体を起こした。

 真正面に天幕の残骸が見えた。俺の斬撃は最後に地面へ叩き込まれたため、その余波で天幕そのものが破壊されてしまったのだろう。


「……被害は?」

「ないよ。エルクの攻撃で天幕は壊れてしまったけど、ミーシャの結界が最後まで機能していた。エルクの攻撃と漆黒のぶつかり合いで大半の力が相殺されて、被害がそのくらいに留まった、ということだと思う」

「――とはいえ、かなり危なかったですね」


 ミーシャの声だ。首を向けると、横手から彼女が近づいてきた。


「破壊するために全てをつぎ込んだようですが……結界越しに感じられる膨大な力から、わたくしの結界では到底抑えきれないとわかってしまった……セリスの言う通り大半の力が相殺されたため、あなたもわたくし達も無事、ということですわ」

「そっか……組織と戦うために得た力全てを注がないと到底破壊できなかった。ギリギリだったけど、運良く最良の結末を迎えることができたみたいだな」


 俺の言葉にセリスとミーシャは小さく頷いた。


「……エルク、立てる?」

「ん? ああ、体は平気だよ……あ、でも」


 俺は一つ気付く。体の内に存在していた世界を滅ぼす力……その力が減っている


「力は結構失ったみたいだ……全力を注いだ弊害かな」

「そう……でも、エルクには必要ないよ。もう、世界を滅ぼすような力が現れるようなことはないと思うし」


 ……まあ、辺境の領主である俺には過ぎたる力だったのは間違いない。確かに俺はセリスと対等になりたくて力を求めた。でも、俺が手にしたのは不相応過ぎるものではあった。


「……俺のことは騎士も見ているけど、これについてはどうするんだ?」

「帝都に戻って相談するよ。エルクの不利益にならないようにするから、安心して」

「わかった」


 話はそれで終わり、セリスは撤収準備を始めるべく騎士に指示を出し始めた。そうした光景を眺めながら、俺は一度破壊された天幕を見る。


「確認しましたが、組織の根源と呼ぶべき力は、間違いなく消滅しました」


 そこでまだ近くにいたミーシャが発言した。


「わたくしの役目も終わりそうですわね」

「……ミーシャの方は、その力を利用しまだ動くのか?」

「組織の残党を追い掛けるつもりですが、それに決着がつき次第、わたくしも力の大半を封じるつもりです」

「力を……封じる?」

「ええ、あなたと同様、わたくしにとっても過ぎたる力……いえ、人間が本来、触れてはならぬ力だと思います」

「……古の種族が残したものだとすれば、まだどこかに似たような力が眠っているかもしれない」

「それに備え国の管理として残しておく……その一方で、平常時は誰にも触れられないようにする……力の扱いとしては無難な落とし所でしょう」


 そう言った後、ミーシャも歩き出した。


「わたくしも撤収準備を手伝います」


 一方的に告げると歩き去って行った。残された俺は、地面に座り込みながら少しの間、呆然となる。

 戦いには勝った……それは間違いない。だが勝利の余韻もなく、胸に残るのは終わったんだ、という感覚だけ。


 ――そうは言うものの、帝国側に犠牲者はなかった。エイテルの策略もあったとはいえ、戦いの結果としては完全勝利と言っていい。間違いなく、俺達は理想的な結末を迎えた。


「……ジャノ、俺達は完璧にやれた、よな?」


 そう問い掛けた。けれど、


「……ジャノ?」


 返事は、なかった。



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